「私は自分を男だとしか思えない」結婚後に告白したトランスジェンダー当事者、夫はどう思っている?
それでもパートナーは私を一方的に拒絶することはなく、共に悩んでくれた。ひと思いに突き放して、離婚することだってできたのに。
私は当事者だ。自認する性別で生きるしかないと、何十年かけて結論を出した。そのことで他者から後ろ指をさされる覚悟はできている。しかし、パートナーは違う。ただ家族として、共に生きようと試行錯誤しているだけだ。そんな彼を好奇の目にさらさせていいわけがない。そんな恩を仇で返すようなことを、私は全力で避けたい。
そもそも、パートナーも手放しに私のことを受け入れているわけではない。なんならぜんぜん受け入れていない可能性だってかなりある。ホルモン治療の開始を夫に相談しても、「男性化したら好きでいられるかわからない」「俺は知りません」と、当然いい顔はしなかった。私がホルモン治療をはじめてしまえば、夫を強制的に当事者家族にしてしまう。そんな後ろめたさを感じながらも、「ええい、ままよ!」とばかりに、私は治療に踏み切った。
時間を巻き戻すと、私の前にまず立ちはだかったのは、義理の両親だった。ホルモン治療を始める前、私はパートナーと彼の両親の家から黙って逃げ出した。
義理の母はとても接しやすい人ではあったが、それでも“嫁”として夫、つまり自分の息子に尽くすことを私に求めてきた。いや、露骨に言われたわけではないが、義母のなかにある妻、嫁の理想像が透けて見えることが多々あり、それに応えられない罪悪感や息苦しさから、一緒に生活することに私が耐えられなくなってしまったのだ。
しかし、そのつらさをパートナーに言っても、まるで理解が得られなかった。当然だろう。女性として出会い、愛した妻(私)が突然、「女じゃない」と言い出したのだ。何度言葉を尽くしても、どうしても理解を得られなかった。離婚も選択肢に、話し合いを繰り返した。
そんなある日、性的マイノリティに詳しくて夫婦カウンセリングをしている方を、知人から紹介してもらった。その方に仲介してもらい、パートナーはようやく私の言葉が理解できたようだ。すべてではないにしても、性別に苦しんでいることだけはわかってくれた。それだけで十分だった。いまのままでは義両親と同居できないと納得してくれたからだ。気がつけば、離婚という選択肢は消え、どうしたら共に生きられるかを模索するようになっていた。
義母への罪悪感から家出
時間を巻き戻すと、私の前にまず立ちはだかったのは、義理の両親だった。ホルモン治療を始める前、私はパートナーと彼の両親の家から黙って逃げ出した。


