ーー社会の基準から外れている人を受け入れられない人は多くいますか?
高井:そうですね。「差別をなくしましょう」というと、社会が大きく変わってしまうのではないかと恐れてしまう人が多いように感じます。
このことはさまざまな差別にいえることで、「妊娠して仕事を休んでいる女性をなぜ雇い続けなければいけないのか」「障害者が公共交通機関を利用すると、運賃が値上がりする」など、変化を拒否するような反応は珍しくありません。
――この反応はトランスジェンダーに対してはどのような形で表れていますか?
高井:トランスジェンダーの人たちは、就職差別やメンタルヘルスの問題、貧困など、日常生活でさまざまな問題に衝突しています。
それらを変えるための発信や活動が行われているものの、どうしてもトイレや入浴施設など、女性専用スペースに注目されてしまう傾向にあり、両者のすれ違いがSNSでは多く見られます。
――先ほどさまざまな問題があるとおっしゃっていましたが、そのことについても詳しく教えてください。
高井:2019年に大阪市で実施された「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」によると、「深刻な心理的苦痛を感じている可能性」があるトランスジェンダーは18.8%で、「シスジェンダー(生まれたときに割り当てられた性別そのものに違和感のない状態で生きている人)で、かつ異性愛の人」の3倍の割合であることがわかりました。
さらに、トランスジェンダーは、トランス女性、トランス男性にかかわらず、性暴力被害に遭う確率が高いことも調査結果で明らかになっています。
――トランスジェンダーの人たちが性暴力被害に遭いやすいのはなぜですか?
高井:経済状況も影響していると思います。2020年に認定NPO法人の「虹色ダイバーシティ」と国際基督教大学ジェンダー研究センターが行った調査では、過去1年間で預金残高が1万円以下になったことのあるトランスジェンダーの割合が3割を超えていたとの結果が報告されました。
お金がないと家がなくなり、家がなくなると誰かの家に泊まらなければならない。そのような状況で、泊めてもらう交換条件として性暴力被害が発生するケースも考えられます。
トランスジェンダーは、お金がなかったり、住む場所がなかったり、力を奪われやすい立場にあるので、性暴力被害に巻き込まれる確率はどうしても上がってしまいます。
――身を寄せる先で性暴力被害……あってはならない問題ですね。
高井:社会で起きている差別が1対1の関係性にも反映されてしまうことがあります。これはシスジェンダーの男性と女性の間でもいえることですが、相手から性行為を求められて断りやすい人、断りにくい人などがいて、社会的に力を持ちやすい属性の人と、力を奪われやすい属性の人のあいだの関係は、個人間にも流れ込むことがあり、そうした背景から性暴力の被害に遭うことはよくあることなのです。