King Gnu井口理の“俳優としての才能“がスゴい。映画『ひとりぼっちじゃない』にみる魅力
ある歯科医の不思議な日常を描く映画『ひとりぼっちじゃない』が、2023年3月10日(金)から公開されている。
ああ、この映画よくわからないな。と思っても、諦めずに目を凝らしてみるとどうだろう。高校の古文テストに似ていて、一度わからなくなるとストーリーを楽しむことはできなくなる。すると残るは、俳優の演技に集中するしかない。『ひとりぼっちじゃない』は、そういうタイプの映画だ。
主人公・ススメを演じるのが、「King Gnu」の井口理ということで期待は十分でもあった。筆者は本作を劇場で見る前、地下鉄の改札前で井口が映る広告を目にした。サントリーのウイスキー「碧Ao」の広告ビジュアルに岡田将生とツーショットで写る井口は、クールなたたずまいでいかにもアーティスト然としている。この広告を見たあとでは、本作から受ける印象はあまりに違うだろう。
本作には、「King Gnu」でイメージするカリスマ的な井口はどこにも見当たらないからだ。黒目の半分に瞼(まぶた)がかぶさり、終始なんだか頼りない表情を浮かべている。カリスマ的なイメージを全力で壊しにかかる井口の“俳優映画”をどう観るか。
本作の井口がここまで普段のアーティストイメージ(ないしはビジュアル)と違うのか。理由は簡単。俳優として画面上に存在することにだけ徹しているからだ。
ファッションブランド「GUCCI」一族の争いを描いた『ハウス・オブ・グッチ』(2021年)で、主人公の妻を演じたレディ・ガガがまさにそうだった。アーティストとしてステージに立つときの派手なビジュアルを脱ぎ捨て、ほとんどすっぴん顔で悪妻役を熱演していた。
同作のガガのように井口も映画に出演(ましてや初主演)するからには、カリスマ的なアーティストの姿をここはきっぱり封印する。映画俳優に徹する丸裸の自分をカメラの前にさらけ出す。アーティストが俳優になることは、こうした潔い覚悟が前提にある。
「King Gnu」のメンバーであり、俳優としても活躍する井口理の初主演作品だ。同バンドで歌う井口を想像しながら本作を観た観客は、おそらく驚くだろう。
「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、アーティスト感を封印し、俳優に徹する井口理の演技を解説する。