――では、「これは持っていくべきだった」と思うものは?
ふかわ「使い捨てカメラの予備です。3泊4日で27枚くらいがちょうどいいだろうと思っていたのですが、予想以上にハイペースで撮ってしまったので、使い終わった瞬間になかなかの絶望感に苛まれました。
でも、フィルムが36枚だったら、カメラがもう1個あったらという後悔も、今回の旅の醍醐味と言っていいような気がします」
――わかります。本に写真が載っていましたが、スマホで無限に撮れるものではなく、限られた枚数であったことも含めて味わい深かったです。旅先での人々との出会いも同様に、スマホがないからこそであるように感じました。
ふかわ「そうですね。スマホを持っていたら、あれは辿り着けない景色だったと思います。もちろん、スマホはスマホで素敵な出会いはあるというのが前提の話ですが」
人生を大きく変えはしないけど、一期一会の出会いを大事に
――旅先ではない普段の生活の中でも、知らない人との触れ合いはある方ですか?
ふかわ「カウンター越しにお店の大将と話をしたり、地元の人との触れ合いは好きです。タクシーの運転手さんとの会話も面白いですね。数値化できないものがオマケとして自分の中に入ってきて、他にはない感触や手触りがあります。
決して人生を大きく変えるものではないけれど、私はそういう一期一会を大事にしたいと思っています。今回の本で書いたエピソードでいえば、観光案内所でお墓を探しているご婦人との出会いなんかは、まさにその感覚でした」
――今回の旅ではたくさんのグルメとの出会いもありまたよね。敢えてベストワンを挙げるとすれば、何になりますか?
ふかわ「郡上八幡城に登らずに選んだおだんごですね。あれは美味しかったなぁ……。
私がタクシーを呼ぼうと立ち寄った駅舎のカフェで、女性の「美味しそう~」の声が耳に入ったんです。なんか甘いものが運ばれていて。ずっとあの甘いものが気になっていたのですが、城を登ると食べる時間がなくなってしまう。それなら、と心を決めました。
SNSやグルメサイトで辿り着いたのとは、ルートが違うんです。どっちが良いとか悪いとかじゃなく、『美味しそう』の言葉が誘ってくれたおだんごが、とても眩しかったのです」