「会社の受付でそんなことをされても困るので、そのままロビーのソファがあるところまで誘導したんです。
『大きな会社なのね』と彼女はつぶやいてソファに座ると、『離婚してくれないの?』って、いきなり。
あなた一体誰なのと言うと『ケンタとつきあってるの。すぐに離婚するって言いながら、もう1年たつんですよね』と。彼女を見たときから嫌な予感はしたけど、まさかとも思っていたからすぐには何も言えなくて」

ナツミさんは「
ケンタが、妻はつまんない女だってよく言ってる」とも言った。つい先日だって家族で出かけたばかり。「やっぱり家族3人で一緒にいる時間はいいなあ」と夫は言っていたのに。どちらが夫の本音なのか、あるいはナツミさんが嘘をついているのか、リカコさんには見極めがつかなかった。
「
ケンタってさ、私の体も心も自分のものだって、すごく執着しているのよ。奥さんとはしてないんでしょ、セックス。拒否されてるって言ってた。でも今は私がいるからいいんだって」
ナツミさんは言いたい放題だった。あげく、「奥さんの顔が見たかっただけだから、じゃあねと」と去って行った。
「私はあっけにとられたというのが本音ですね。夫が本当に浮気しているのか、しかもあんな品のない女と。それ以外の感想が出てこなかった。これを
夫に伝えるべきなのか、どう伝えたら夫の本音が見えてくるのかを考えていました」
ショックで取り乱すというよりは信じられなかったのだとリカコさんは言う。時間がたつにつれ、これまでふたりで話し合いを重ね、培ってきた大事な家庭をあんな女に壊されたくないと思った。
「そのあと、怒りがわいてきました。妻の顔が見たかったってどういう神経をしているのかしら、あんな女と夫は本当につきあっているんだろか、だとしたら夫とはとてもこの先、やっていけない。だけどまだ離婚は考えられなかった。
このままですむと思うなよという気もちになりました」