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『ペンディングトレイン』脚本家が明かす山田裕貴キャスティング秘話「別の役を想定していた」

「山田裕貴さんに人生賭けます!」

©︎TBS――山田裕貴さんの民放GP帯連ドラ初主演作品がなかったことは、ほんとうに意外でした。脚本を書くにあたって特別な思いがありましたか? 金子:『ペンディングトレイン』は、名もなき人々の戦いの物語です。キャスティング段階で、山田さんのお名前が上がったとき、初主演というのが、物語の企画と合っているなと思いました。山田さんが主人公を演じたら、頼りにもなるけれど、不安を駆り立てる絶妙な感じもしたからです。  山田さんはじめ、横並びの群像劇なら、主人公たちがどうなってしまうのか、もしかしたら助からないかもしれない。先の展開がわからない設定が、その役柄を呼んでいるという、本来あるべきドラマの作り方だなとしっくりきました。 ――なるほど、山田さんが萱島直哉役を演じることは、ある意味、必然的なことだったのですね。 金子:山田さんが熱い思いを持っている方だということを知っていたからこそ、後悔なく初主演作品に挑めるよう寄り添いたいなと思っていました。  でも当初は、赤楚衛二さんが演じている消防士の白浜優斗を主人公に想定している時もありました。優斗役のほうが誰を追っていけばいいのか、ドラマのガイドとして視聴者がわかりやすいと思ったからです。 ――では、なぜ最終的に山田さんが萱島直哉役を? 金子:山田さんとお話しているうちに、どちらの役を演じてもいいなと思うようになりました。でもなんとなく山田さんは、直哉のほうに惹かれている気がしました。  もちろん脚本家として、優斗役で推すこともできましたが、山田さんの中で何かひらめきがあると感じたので、そちらに賭けようと思いました。私自身、「山田裕貴さんに人生賭けます!」と周囲に言っていたくらいです。  決して人々を助けるヒーローではなく、普通の人を選んだ。これが結果的にこのドラマの貫くべきスタイルとテーマに繋がっていった気がします。

「普通の言葉だけど刺さる」直哉の台詞

©︎TBS――配役の秘話を聞いてなおさら、直哉が節々で吐く台詞が印象的だなと思います。特に、第1話ラスト、「ここにいるしかないんだから」と山田さんが電車内で放つ台詞にしびれます。どうってことない言葉なのに、なんでしょう、このリアルな感じは。金子さんの脚本は、パワーワードではなく、日常的な言葉でつむがれるからこそ、キャラクターに力強さが吹き込まれるように思います。 金子:それは、すごく気をつけていることなので、ご指摘は嬉しいです。私の信条として、脚本家が選ぶ言葉、書く台詞がキャラクターの前に出ないようにしたいと思っています。  視聴者の皆さんの心には、登場人物たちの言葉として残ってほしいからこそ、普通の言葉でありながら、『刺さる』台詞を目指しています。 ――『ペンディングトレイン』では、そうした台詞の巧みさを特に感じます。第6話、焚き火場面での「俺は何にも期待しない。そう決めてるの」。第7話、雨宿り場面での「それが逃げてる? それが俺なんだよ」。セリフがキャラクターを性格づけ、しかもそれが説明には聞こえないという。直哉のキャラクター性がにじむ素晴らしい台詞です。 金子:「それが俺なんだよ」、あの台詞の言い方、思い出して泣きそうです。それぐらいあの場面のお芝居は、ほんとうに素晴らしいです。 ――直哉の頑なで、意固地で、がんじがらめな感じ。『牛に願いを Love&Farm』(2007年)で玉山鉄二さんが演じた高清水高志にすこし似ています。 金子:そう言われると、そうかも知れません。どことなくこじらせ系キャラクターの系譜ですね。私の書いた作品の中では、『着飾る恋には理由があって』で横浜流星さんが演じた藤野駿もこの系譜にあたるかと思います。
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「主演俳優であることを自力で証明する」山田裕貴の存在感
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