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『ペンディングトレイン』脚本家が明かす山田裕貴キャスティング秘話「別の役を想定していた」

直哉の脳内とリンクしながら、彼の心を辿る

©︎TBS――自分で自分を苦しめ、孤軍奮闘する彼らがいざ行動に移した瞬間のエモーションは、誰よりもすごい力を発揮します。静から動へのダイナミズムこそ、金子さんが描くキャラクターたちの魅力だと思いますが、どのように造形するのでしょうか? 金子:まず最初にキャラクターの感情の沸点を決めるんです。その人物の喜怒哀楽が、一番表出するところを決め、そこから逆算しながら構成します。  おそらく感情の沸点は、ドラマで言えばエモーショナルな音楽が流れるところだし、見どころです。でもそれが見つからないこともあります。そういうときは、キャラクターについて何かが見えてないということです。  例えば、第7話が象徴的です。直哉のこれまでの人生には、期待して裏切られるから怖いという感情があり、ではその根幹には何があるんだろうと考えました。最初は見つからず、直哉の記憶をたどった時に、そうか、お母さんの存在だと気づきました。それですべての話が組み上がったあと、直哉のラインを入れ直しました。 ――直哉が、まだカリスマ美容師になる前、幼い弟をひとり育てるアパートのドアをお母さんがノックする場面ですね。 金子:そうです。あの夜、魚を焼いていると、不意にお母さんが帰ってきたという記憶が、直哉の中にはあるんだとひらめきました。実は直哉はずっとお母さんがノックするのを待っていた。その姿が見えたんです。  直哉はどんな人で、彼の心の奥にどんな記憶が眠っているのか。優斗はどんな過去を抱え、どんな思いがあるのか。全話を通して、ときに彼らの脳内とリンクしながら、その心を辿る作業になりました。 ――ドラマの話数が重ねられ、展開が進むごとにだんだん心の声が聞こえてきたというような感覚ですね。 金子:そうです。さらに直哉を演じる山田さんの演技を見ると、これは思ったより傷が深そうだなという発見もありました。

「主演俳優であることを自力で証明する」山田裕貴の存在感

金子ありささん――第1話、2話までは、赤楚さんの出演パートのほうが比較的多いかなと思って見ていたんですが、ちょうど折り返す第5話あたりから、ああやはり山田さんが主演だなと思う瞬間が頻出します。露天風呂に入り、星空を眺める表情などが特にそうです。『ペンディングトレイン』では、全編を通じて、山田裕貴という俳優に不思議と興味が湧いてくる感覚があるように思います。 金子:山田さんは、脚本上の「……」の表情や、気持ちの流し方の精度が抜群に高いです。「思い出が解けてゆく」とか「寂しさが胸を貫く」など、私はいつもト書きに心情を書くんですが、山田さんは少なめでいいなと途中で思ったくらい、すべて完璧に理解して演じていらっしゃるようでした。もちろん、監督や宮﨑プロデューサーのご尽力もあったかとは思いますが。  山田さんはその「……」に加え、セリフが全てナチュラルであり、でも表情が予想の斜め上に来るという面白さがあると思いました。特に第1話の「疲れた」は、崖を登ってへとへとになる身体的な意味ではなく、ずっと頑張ってきた、でも人生ままならない精神的な「疲れた」です。  そう事前に話し合っていましたが、なるほど、第1話からいきなりこの表情できたかと驚きました。スキージャンプなら、K点越えの演技です。 ――消防士役ではなく、あえて美容師役を選んだところに、やはり山田さんの勝算があったのですね。 金子:それはご本人に聞いてみたいです。ご指摘のように、消防士の優斗は、活動的で、アクションも多く、赤楚衛二さんの輝くオーラには本当に目が行きます。そして赤楚さんの持つ清廉さ、ひたむきさはまさにヒーローです。でも山田さん演じる直哉もその複雑な設定を背負いながら、また別の輝きを放っていきます。  彼にしかできない演技で、主演俳優であることを自力で証明する、山田裕貴ここにありの存在感。初主演作品の演技としてこれほど素晴らしいものはありません。 <取材・文/加賀谷健 撮影/星亘>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修 俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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