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「女の子ってこんなに悩んでるんだ!」『宮本から君へ』の巨匠が女性の悩みの重さに気づいた意外なきっかけ<漫画>

監督2人で1本の映画を撮ってるみたいで大変

――「参謀」であるゆみこさんと綿密な打合せをしながら作品を作られているとのことですが、どのような苦労がありますか? 新井: 2人で作ってると、映画監督2人で1本の映画を撮ってるみたいな状態になったりして、それが大変(笑)。 ゆみこさんも映像関係の仕事の経験があるので、「ここの構図が」とか「この展開が」って提案とかもくれて。フェティッシュっていわれるものに詳しいのはゆみこさんで、「ここはこうしたほうが反応がいい」っていうのはおそらく正解なんだけど、それを追いかけていくと、漫画としては、ここで大ゴマとれないし、絵の大きさのリズムがあるし…っていう押し引きがあったりもして。 せっかくふざけた感じにしたいのに「監修」っていう言葉を使うと固くなっちゃうから、「参謀っていうのはどう?」って俺から言った。でも参謀の仕事ってどこまでだろう?ってお互い探り探りで(笑)。今回びっくりするくらい人の意見を取り入れてる。セリフを一言一句作ってからネームを起こすって初めてで。最初にそれをやったのが第4話だった。これはこれで面白い!って。ただし……きつい(笑)。 ――そこまで話し合うんですね! 打合せだけで、かなり時間がかかるのでは。 新井:めちゃくちゃかかる。今までと違う頭の使い方してる感じがある。最近は2人とも学習してきて、「これをやると喧嘩になるんだ」って引くようになった(笑)。あまりにも詰めてやりすぎると余白や遊びの部分がなくてきついから、まず必要なとこだけ決めようと。意見が分かれた時は、清水さんに「今こんな状況だから立ち会って欲しい」って頼んだ。まさに海の回(第11話)とかね。清水さんの意見を聞いて、「それそれ! 第三者から見て、こう思うんだよ!」。「俺が言ってるわけじゃないから!」って(笑)。冬実の「言いたいことを言ってる」ってセリフは、清水さんのアイディアだよね。 清水:「海に行って大雨の中で喧嘩するって話を描きたい」ってところから始まって、じゃあどういう経緯で?っていうのを話し合いました。大勢で行くはずだったけど、どうして他のメンバーが来れなくなったのかな、お腹を壊したからかなって。そうやって展開をみんなで話し続けて、新井さんのA4用紙のメモがちょうど5枚埋まると32ページの漫画になるんです(笑)。 新井:あの回では、自分がゆみこさんたちに浜辺に埋められて水をかけられてる写真が資料として送られてきた(笑)。

強烈な“白線エピソード”は実話ベース

――夏菜が「どーん!」という口癖を言うきっかけとなった第1話のエピソードは強烈でした。 新井:あれは俺のオリジナル。でも白線の部分は、40代の時のゆみこさんの実体験のエピソードがベースになってて。白線の上を「落ちちゃいけない」ってルールで歩いてたら、向こうから同じように白線の上をおじさんがやって来て、目が合って。おじさんに「白線?」って言われたって(笑)。むちゃくちゃ面白い。漫画にする時には必ずそのエピソードを描こうと。 ――それがあの形になったんですね。 新井:白線の上で出会った返り血浴びた女の人が、目の前でトラックにひかれるっていうのはフィクションだけど(笑)。第1話ですごい好きなのは、女の人がひかれてバシャァっとなった後に、すぐ「はい、その夏に初体験済ませました」って(笑)。あれ、すごく心地いいって思った。多分昔だったら、目の前での事故がショックで立ち直るための話になるのに、このキャラならこのテンポでいけるだろうって。倉科(第1話に登場するマゾのヤクザ)が夏菜をスカウトしたのも、そういう意味で「この子だったらいけるな」って思ったんだろうなと。 ゆみこさんの歴史のソフトな部分を使って作ったキャラクターが、夏菜。やっぱりギャルって最強だなと。俺も今目指すところはギャル(笑)。この先、経済的にも国自体がひどいことになった時に、余裕で乗り越えるメンタリティなのがギャルだなと。諦めずに乗り切れそう。 あのぺニバンのエピソードも、ゆみこさんの実話のまんま。男は「俺、女王様彼女にしてるけど全然平気」って言ってたんだけど、やっぱり最後の最後で我慢がきかなくなって、「俺、器でかいぜ」っていうのが、守り切れなくて決壊する。 ――あのシーン、大好きです(笑)。彼氏の前でぺニバンを付けたら、彼氏に「もう無理」って泣かれる。切ない別れの場面なのにすごい笑っちゃう。 新井:ちょうどペニバンエピソードの打ち合わせをゆみこさんのお店でやってる時に、元バリバリヤンキーの女王様がいたから、「この状況だったらなんて言う?」って聞いてみたら、「マジかー」って言うって。その後会った女王様も、「これは女王様あるある」って言ってた(笑)。 清水:あの一枚絵、めちゃめちゃ面白いですよね。その後も会話が続くんだけど、ペニバン越しに喋ってるから、ペニバンが見切れてる(笑)。 新井:面白くなればいいやって。(この作品は)俺のもんじゃないっていう意識がどこかにある。本になって人の目に触れるようになったら、「鏡ゆみこさん、すごいんすよ!」ってみんなに言いたいと思ってた。 ©新井英樹 参謀:鏡 ゆみこ『SPUNK – スパンク! -』ビームコミックス KADOKAWA <文/藍川じゅん>
藍川じゅん
80年生。フリーライター。ハンドルネームは永田王。著作に『女の性欲解消日記』(eロマンス新書)など。
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