対象的な2人の主人公、わかりあえないまんま互いを認める
――言いたいことをため込む冬実と、思いついたことをすぐ口にする夏菜。冬実は、夏菜が「上から目線」であると感じてイラついてしまう。この主人公たちの関係性に関しても、2人の噛み合ってない感じがすごく自然で、それを悪いものと描かれていないですよね。
新井:それが結構やりたくて。『SPUNK‐スパンク!‐』を読んだ何人かに「シスターフッド」って言われたから、よくわかんなくて調べた(笑)。パートナーが同性であっても異性であっても、お互いが完全にわかりあえるってことがない以上、わかりあえてないと友情がないっていうのは嘘だと思う。わかりあえないまんま認めることはできる。
実際に人と会って仲良くしてて、嫌なところが見えたり知ってたりもするけど、いちいちそれがあるからもう付き合えませんっていうことはない。そういうことを当たり前のように面白く描ければいいなって。

新井英樹 参謀 鏡ゆみこ『SPUNK – スパンク! – 2』 (ビームコミックス) KADOKAWA
――今回の作品では、プロの女王様・鏡ゆみこさんが「監修」ではなく「参謀」という形で参加されています。鏡ゆみこさんとの出会いは?
新井:新宿2丁目を取材した流れでたまたま会うことになって。2丁目でお店のオーナーをやってる男の子に「新井さんに紹介したい人がいる」って言われたのが、ゆみこさんだった。ゆみこさんに会うなり、映画好きだし音楽好きだし「おもろいわこの人!」ってなって、今まで誰にも言ったことないんだけど、自分から「友達になって」って初めて言った。それで連絡先を交換したんだけど、ゆみこさんは「すぐに連絡返すのはやめよう」って思って半年くらい放っておいたらしい(笑)。
――さすが女王様!(笑)
新井:半年くらいして飲みの席で会って、ゆみこさんのサロンに行ってみることになった。それから一年半くらいは、周りでプレイが始まっても「はあ…」って言いながら、自分は完全に外野だし、不謹慎だから笑っちゃ悪いなと思って我慢してた。オーナーの友達として来てるから笑っても許されてる、みたいなのも恥ずかしいし。でも、ある時我慢できずに笑っちゃったら、「笑っていいんだよ!」って言われて「そうだったんですか!?」って。
吉田恵輔監督(新井英樹原作映画『愛しのアイリーン』監督)を誘って連れ立って行ったら、えらい好奇心が強い人だから「あれもやりたい、これもやりたい」となった。そしたら、初めてゆみこさんがニヤッと笑って「じゃあ新井さんもだね」って(笑)。
結構いろんなコースをやられて。それでも別に漫画に描きたいっていうわけではなかった。ただゆみこさんのエピソードがあまりにも面白かったんで、「面白いなあ、人間って!」って思うことが続いて。そのうちに「描いてもいいんだったら、もし俺でよければ描きたいけど」って言った。最初はレポート漫画にするって話から入ったけど、それだと、ゆみこさん本人が「昔はよかったっていう回顧録になるのは面白くないね」って。だったら、若い女の子を主人公にしようってことになった。映画「Mad Max Fury Road」(邦題「マッドマックス怒りのデスロード」)みたいなのを描きたいと、編集の清水さんに話を持ちかけた。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
月刊コミックビーム編集担当・清水(以下、清水):1番最初にお話いただいた時は、女の子2人ともう一人男の子もいて、3人組で戦うっていう設定でした。
新井:男社会クソ食らえ!で戦う設定。SMの道具を利用した形で、徹底的にB級っぽく返り血を浴びてる2人がかっこいいからやりたいっていう話から、徐々に今の形になっていった。