稲垣さんが試行錯誤の末にたどり着いたのが、「調理法別3種類作る」というルール。
①火を通さないおかず(サラダ、漬物など)
②さっと火を通すおかず(炒め物、焼き物など)
③じっくり火を通すおかず(煮物、汁物など)
本書による実例をまとめると、①はレタスときゅうりとトマトのサラダ(残り物の野菜など)、②は秋だったら旬のサンマの塩焼き、③はジャガイモとニンジンの醤油煮(肉を入れれば肉じゃが、サバ缶を入れればサバじゃが)となるわけです。こうしてみると、わびしさはまったくないですよね。栄養バランスもよさそうです。
ただ家族がいる場合、一汁一菜はクレーム案件になるかもしれません。一家の主婦、母の苦労たるや、筆舌に尽くしがたいです。
もういっそ「家事の分担を辞めませんか」というのも本書の提言。家事を他人任せにするのではなく、自分任せにするというのです。そのほうが、ゆくゆくは己のためになるのですよね。家事の大変さも身をもって知れますし、自然と感謝の心も生まれます。
稲垣さん流「家事を圧倒的にラクにするための3原則」を、ここでおさらいします。
①便利に頼らない
②可能性を広げない
③分担をやめる
家電に代表される便利グッズに頼ると、かえって家事が増え、便利グッズがまた新たな可能性を連れてきます。結果、家事が増えるというトラップが起こるのです。家事の分担を妻や母に一任すれば、たまるのはストレスばかり。①②③を実行すると、あら不思議、ストレスの代わりにお金が貯まるというのです。
ものが減れば部屋がきれいになり、ものを増やしたくないという心理が働きます。次いで本書によると、「買う」=「家事が大変になる」「掃除や整頓が大変になる」という公式が成り立つようになったというのです。
本書を読んでいると、世間一般の常識とは何か、豊かな生き方は何なのか、自問したくなります。稲垣さんも本書の端々で語っていますが、本書のような暮らしを推奨しているわけではないのです。本書は、稲垣さんが編み出した稲垣さん基準の最高な暮らしです。
見習うべきはその精神で、私達は私達の基準で、厳しい世の中を愉快なサバイバル精神で乗り切ればいいのではないでしょうか。
<文/森美樹>
森美樹
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『
主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『
母親病』(新潮社)、『
神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。
X:@morimikixxx