長谷川博己が綾瀬はるかを献身的に支える“都合のよい”補佐役だけでは終わらなかった理由
NHK版金田一耕助シリーズの再放送がはじまり、まず第1弾の『獄門島』(16年)が放送された。シリーズはいまのところ4作で、その内、『獄門島』だけ金田一耕助役を長谷川博己がやっている。
第2弾以降は吉岡秀隆に変わった。吉岡版も味わい深いが、長谷川版金田一もいい。再放送後、SNSでも高評価の声があがっていた。
筆者も吉岡版もいいけれど、なぜ長谷川博己は連投しなかったのかと惜しく思っている。たぶん、その後、朝ドラ『まんぷく』(18年 NHK)のヒロインの相手役、大河ドラマ『麒麟がくる』(20年 NHK)の主演と大役が続いたからではないかと推測するが定かではない。
『獄門島』の長谷川博己の魅力は、戦争のトラウマを引きずっているところである。横溝正史の金田一耕助シリーズの事件は戦後日本の闇が背景になっているが、これまでの数々の映像化では金田一当人に社会的背景を背負わせるのではなく、あくまで金田一は傍観者として存在した。
それが長谷川金田一は極めて能動的で、復員兵であることが強調され、時々、戦争のことを思い出して感情を揺らす。人が人を殺すことに強い興味を持ち、それをモチベーションにして事件の真相を追うのだ(最後に彼の言う、事件を追った理由はぞくりとなる)。
その結果、犯人を追い詰めたときの「無駄!無駄!無駄!」「無意味!」と叫ぶ感情の高揚が、彼の代表作のひとつ『劇場版 MOZU』(15年)の名台詞「チャオ」のようだとSNSで受けた。この「チャオ」のインパクトはすごいもので、長谷川博己を起爆力のある俳優として認知させた。
長谷川博己は、故・蜷川幸雄には「ホワイトアスパラ」と言われていたほどで、一見、草食系の代表格のように見えるが、案外、獣性を隠しもっている。それが長谷川博己の魅力であり、「チャオ」から遡(さかのぼ)ること5年前、不倫ドラマ『セカンドバージン』(10年 NHK)で、スーツの似合う知的エリート(金融庁の官僚)を演じて女性人気を獲得したときも、仕事にも恋にも背徳を行う役だからこそ女性視聴者の心を掴んだ。
『鈴木先生』(11年 テレビ東京)、月9『デート~恋とはどんなものかしら~』(15年 フジテレビ系)でも頭は抜群にいいが一風変わった人物を演じて、男女共に人気を得るようになる。見た目はしゅっとしているが、一筋縄ではいかない、たぎる理念や野心を秘めた曲者の役を演じると抜群。
主演映画『はい、泳げません』(22年)では、水が苦手な哲学者の役で、最初、コミカルな物語かと思わせて、彼の水への怖れが人間の深い内面に潜っていく意外性が妙味だった。
『MOZU』の名台詞「チャオ」のインパクトがすごい
一見草食系だが獣性を隠し持つのが魅力
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