冬美のセリフを聞いた時、イスラエルの社会学者であるオルナ・ドーナト氏の著書で、2022年にリリースされて話題を集めた『
母親になって後悔してる』(新潮社)が頭に浮かんだ。

11話では職場の先輩・天野さんから「有紗ちゃんだから一緒にいたかったんだよ」と言われる場面も ©「初恋、ざらり」製作委員会
同書の中では、子どもを持ったことにより様々な制約や責任を強いられる苦悩を抱え、タイトル通り“母親になって後悔してる”母親たちの赤裸々な告白がいくつも綴られている。同著が注目されたのは、母親になって後悔してる人が少なくないことの証だろう。
冬美も間違いなくその1人。実際、有紗の「私のこと産まなきゃ良かったって思ってる?」と問いに、「思った……時もあった」と母親になって後悔した経験があると告白した。とはいえ「あんたがいたから頑張れたのも本当」とも話している。
“産んだことを後悔する時もあったけど産んで良かった”という一見矛盾しているセリフではあるが、母親になったことについては簡単に言い表せるものではない。そういった母親のリアルを、綺麗事で片づけなかった。母親になって後悔している人たちの苦悩や葛藤を端的に表し、それでいて母親の愛情もしっかり感じられるセリフとなっており、これまでの映画やドラマでは感じたことのないインパクトがあった。
有紗に障がいがあろうと、ひとり親家庭だろうと、子どもを産んだことを後悔する時があろうと、
どれだけざらりとした関係性であっても2人が素敵な親子であることは間違いない。等身大の家族愛が描かれた11話だった。
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<文/望月悠木>
望月悠木
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):
@mochizukiyuuki