その場合、
おそらく多くの人が普通ではなくなる。岡村の同僚・天野(西山繭子)は離婚を検討しており、弁護士に相談するために仕事を休み、結果として有紗1人に配車業務を任せて職場の混乱を招くキッカケを作って職場に迷惑をかけていた。

©「初恋、ざらり」製作委員会
有紗と同じ仕分け業務をしている湯川(尾上紫)も、6話で所長にサプライズで渡すはずだったプレゼントをウッカリ捨ててしまうという普通ではないムーブをかましている。岡村の兄・龍之介も幼少期から自由奔放に生きており、両親を心配させ、その結果として岡村が両親から普通であることを押し付けられた元凶である。そもそも、作中では描かれていなかっただけで、誰かしらに迷惑をかけている登場人物は多いはずだ。
普通と呼べる人物はほとんどいない、だからといって、異常者ばかりのドラマかと言えば全くそうではない。他人に迷惑をかけることはそれだけ日常的で、つまりは誰でも普通でなくなる瞬間は珍しいことではない。有紗と岡村は一見対比のように描かれていたが、有紗が普通になって、岡村が普通ではなくなるケースもある。
ラストシーンでは、目玉焼きをひっくり返せなかった岡村に有紗は「大丈夫です」と言い、皿にウィンナーを入れられずテーブルの上に落としてしまった有紗に岡村も「大丈夫です」と笑いながらフォローしていた。
ミスは誰でもするが、その際に笑顔で許し合うことができれば、普通かどうかは関係なく楽しく生きていけるのかもしれない。
障がいの有無にかかわらず、私達は普通と普通じゃないを行ったり来たりしながら生きている。もし自分が普通でいられている時は、そうじゃない人に「大丈夫です」と優しく声を掛けたい。そんな気持ちになる。いろいろ考えさせられたが、まずは、誰かに優しくしたくなるドラマだった。
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<文/望月悠木>
望月悠木
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):
@mochizukiyuuki