その後のマリさんからの報告によれば、月曜日に出社すると誰も話しかけてこなかったという。ただ、上司には呼ばれて話を聞かれた。そしてその週末、彼は地方の支社に転勤が決まったそうだ。

「飛ばされたというわけではなくて、彼の希望らしいです。落ち着いた土地でふたりで子育てしたいからって。
なんだかふざけた男ですよね。だからマリさんとふたりで彼を呼び出したんですよ。『遠くに行く前に私たちに何か言うことはないのか』と。彼、居酒屋で立ち上がって私たちに深々と頭を下げました」
ふたりとも彼に未練はなかったので、それで解放したのだが、これにはさらに後日談がある。
「子どもが生まれてすぐ、彼は離婚したんです。どうやら彼の子じゃなかったらしくて」
それを聞いたとき、ユキコさんはなんだかおかしくて吹き出してしまったという。
「誰が被害者なのか、誰が誰を騙していたのか、もうわけがわからない。悔しいとか悲しいとかいうより、人間って私も含めて誰も彼も愚かなんだなあと妙に感じ入ってしまいましたね」
男女の間はいつ何が起こるかわからない。恋愛は闘争だと言う人もいる。力づくで奪いとった者勝ちなのだと。だが実際はそうとも限らない。
いろいろなところに「魔物」は潜んでいるのである。
<文/亀山早苗>
⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】