末期がんで余命宣告を受けた夫が「抗がん剤は使わず治す」と宣言。その選択に寄り添った妻の思いとは
ある人によって明らかになる女性問題…
――あれはすごいエピソードでした。中国や韓国の研修アルバムを見ると女性のお弟子さんたちに囲まれた写真がたくさん。弥生さんが複雑な気持ちになる瞬間が映ってるんですよね。
馬場:あの場面を撮っている時は「これ出しちゃダメよ」と言われました。でもこれを出さないと面白くないよなと思っていました(笑)。
稔さんはあの家で弥生さんに天下を取られていましたから、女性問題はないと思ってた。ところが、右腕だったお弟子さんの榎園(えのきぞの)さん登場によって、初めて稔さんに女性関係があったと知り、稔さんに興味を持ったんです。夫婦関係の難しさです。
藤澤:榎園さんの登場でこの映画は変わっていきます。稔さんが師事した中国の気功家で医師でもある焦国瑞(しょうこくずい)老師がホテルで倒れた時のエピソードなど、生き生きとしていました。まるで目の前で起こっているかのように、過去のことを言うでしょ。あれは、普通の人にはなかなかできない。この映画をほんとうによく描くために努力をしてくれました。
馬場:あの人無くして、今回の映画はできなかった。そう思います。榎園さんの家で行ったインタビューの後、2週間後に亡くなってしまうんです。
藤澤:あのインタビューが置き土産のようです。
馬場:榎園さんという人は、稔さんにも弥生さんにも両方に愛情を持ってる人。普通はどちらかの味方ではないですか。それが星野夫妻の救いですね。心温かい方です。この映画は私が面倒をみるとまで言う気風のいい方で、すごく嬉しかったです。
抗がん剤を拒み、代替療法を選んだ稔さん
――身体の自由がきかなくなった稔さんの言葉で印象的なものがあります。「俺が悪いんだよ。俺の理解が届いてないの」。スキルス胃癌に対して主体性を持たせる発言です。稔さんの病気との向き合い方を見つめ続けてどうでしたか?
馬場:スキルス胃がんの小冊子を取り寄せて、読み込みました。それを夫婦に渡しても全然読んでくれない。「気功家としての生き様に反する」と言って抗がん剤を嫌った稔さんは、植物由来のサプリメントや玄米食による代替療法を選びましたが、あれじゃ効かないよなと思っていました。
藤澤:抗がん剤を飲んで、あと2年でも3年でも生きてもらいたかったです。友人としてそう願うのは当たり前ですから、カメラを向けながら、抗がん剤治療を何度も勧めました。
しかし稔さんには稔さんの信念があります。抗がん剤で延命するのではなく、生きることの挑戦がそこにはあったんだと思います。長生きをするのではなく、“生きる”んだと。
馬場:砂糖ダメ、油ダメ、動物性タンパク質ダメ、卵ダメ。玄米中心の生活をずっと続けていたんですが、亡くなる1週間くらい前から、急に何でも食べようという気持ちになったんです。
映画にも登場する、稔さんの飲み友達であり、代替医学で有名な帯津良一医師に「何でも食べなさい」と言われると、弥生さんの友達の旦那さんが、西東京から世田谷まで自転車を走らせて、紀伊國屋のステーキを持ってきてくれました。
稔さんは、それを半分くらい食べてその夜、倒れました。食べたい物を食べる。弥生さんは救われた気持ちになったと思います。カメラを回せなかったエピソードです。
【作品概要】
『東京夫婦善哉』
製作・配給:有限会社ビックリ・バン
配給協力:風狂映画舎
(C)有限会社ビックリ・バン
公式サイトはこちら
【劇場情報】
アップリンク京都にて2024年1月5~11日
舞台挨拶:
・1月5日(金)12:00の回(上映後)
・1月6日(土)12:00の回(上映後)
登壇者:
星野弥生(出演)、藤澤勇夫(本作監督)、馬場民子(本作プロデューサー)
『東京夫婦善哉』
製作・配給:有限会社ビックリ・バン
配給協力:風狂映画舎
(C)有限会社ビックリ・バン
公式サイトはこちら
【劇場情報】
アップリンク京都にて2024年1月5~11日
舞台挨拶:
・1月5日(金)12:00の回(上映後)
・1月6日(土)12:00の回(上映後)
登壇者:
星野弥生(出演)、藤澤勇夫(本作監督)、馬場民子(本作プロデューサー)


