末期がんで余命宣告を受けた夫が「抗がん剤は使わず治す」と宣言。その選択に寄り添った妻の思いとは
夫婦関係を象徴する一言
――2006年のインタビューで藤沢監督は、「ドキュメンタリー番組は偶然に恵まれる」と話しています。夫妻にカメラを回し続ける中で、ステーキの偶然は撮れなかったけれど、逆にこれは偶然の奇跡を掴んだなと思う場面はありますか?
馬場:榎園さんの場面など、たくさんありますが、弥生さんの言葉でしょうか。「今日はもう撮らないよ」と私は言っていたのですが、やっぱりカメラを出しました。「稔さんと結婚していつが一番幸せだったの?」と聞いて撮れたのが、長い夫婦生活で最後が一番幸せだったと弥生さんが語る場面です。
けれど、それ以上に強烈なセリフがひとつあるんです。それは録れなかったんですが、「稔さんを人生で一番苦しめたのは何?」と聞いたときでした。弥生さんは。「私じゃない?」と一言。
夫婦関係を象徴する一言でした。「もう一回言って」とはもちろん言えず、ナレーションで言うのも嘘っぽいし、それがネックですね。
あれは、人生のカットが撮れたんです
――星野夫妻の愛猫チャロの存在も大きかったですか?
藤澤:大きい。感情がたかぶって涙を流す弥生さんを励ます。チャロを撮らなければならないと思いました。好きなカットがたくさんあります。
馬場:チャロは最初お客さんが大嫌いでした。夫婦は夏に1ヶ月ヨーロッパに行くのですが、近所の私たちは餌やり当番があり、みんな引っ掻かれました。ところが、自分が糖尿病になると、方針変えたんですね。お客さんがくると出てくるようになりました。
藤澤:どうしてあんなに変わったのか。
馬場:弥生さんは節約家なのに、1ヶ月の旅行中、チャロのためならクーラーをつけっぱなし。チャロにはお金を使うんだなと心底驚きました。
――稔さんにチャロが続いた後、すごく映画的な雪のワンカットがありました。本作は深遠な題材ながら、ぽこっと温められるような感じがあります。作り終えてどう感じましたか?
藤澤:「よかったな」と。ラストのカットで、一本道が見えて、桜が映る。そのとき、影になるところがあります。あのカットはまぐれで撮れましたが、役に立ちました。あのワンカットがあるからエンディングが決まった。意図してないので、ほんとうに偶然じゃないと撮れません。あれは、人生のカットが撮れたんです。
<取材・文/加賀谷健 撮影/山川修一> 【作品概要】
『東京夫婦善哉』
製作・配給:有限会社ビックリ・バン
配給協力:風狂映画舎
(C)有限会社ビックリ・バン
公式サイトはこちら
【劇場情報】
アップリンク京都にて2024年1月5~11日
舞台挨拶:
・1月5日(金)12:00の回(上映後)
・1月6日(土)12:00の回(上映後)
登壇者:
星野弥生(出演)、藤澤勇夫(本作監督)、馬場民子(本作プロデューサー)
『東京夫婦善哉』
製作・配給:有限会社ビックリ・バン
配給協力:風狂映画舎
(C)有限会社ビックリ・バン
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アップリンク京都にて2024年1月5~11日
舞台挨拶:
・1月5日(金)12:00の回(上映後)
・1月6日(土)12:00の回(上映後)
登壇者:
星野弥生(出演)、藤澤勇夫(本作監督)、馬場民子(本作プロデューサー)


