――スタッフさんへの心遣いを聞いて、工藤さんの演技は、繊細な配慮と微調整を繰り返した演技だと改めて思いました。2023年に行われた完成報告会では、セリフに重みをもたせるために、「はい」の練習を何度も繰り返したと話していました。今日も取材現場に入ってきた瞬間から、工藤さんのとてもクリアな発声の「はい」が聞けました(笑)。
工藤:月島の冷静な「はい」と僕の「はい」はまったく違いますが(笑)。
――毎回の役作りでどんな工夫があるんですか?
工藤:今回の役柄だと、「はい」というのはある種、表面的な発声の部分です。そこから僕自身が月島らしさをどう見せ、どう表現するのか。
衣装やメイクでクオリティが高いビジュアルを作っていただき、あとは自分の雰囲気と佇まい。一挙手一投足。実写版の前にはアニメ作品も放映されているので、声優さんの声も参考になりました。参考になるものはすべて揃えるのが僕のやり方です。
――工藤さんの佇まいは、俳優の資質としてほんとうに特別なものだと思います。有村架純さんと共演した『夏美のホタル』(2016年)でひとつのフレームにおさまる素晴らしい演技を特に記憶しています。表情も含め、この不思議な力はなんだろうと。もし秘密があれば、教えてください。
工藤:なんでしょう、自分ではよくわかりません(笑)。
――カメラの前に立つと、自然と佇まいができてしまうのでしょうか。こうした感性はどこからやってくるのか……。
工藤:日常ではないでしょうか。
――日常?
工藤:はい。演じる人の雰囲気は日常生活で作られると思うんです。自分とは違う誰かの人生を演じる上で、(自分の)その雰囲気が必要ない部分もありますが、でも言葉を発するのも取り込んでいるのも自分でしかない。
顔つきや声のトーンなど、その人だからでる味。他の俳優さんが同じ役を演じれば、その人の良さが役の雰囲気になると思います。だからその人がどう生きてきたか、普段何を考えているのか、どういう人と会っているのか、実はそれが役作りに大きく反映されているのではないでしょうか。