
『夜明けのすべて』(瀬尾まいこ著/水鈴社刊)
原作小説からのアレンジが、物語の本質を損なうことなく、映画ならではの「伝え方」にもなっていた。
中でも大きな変更点は、2人が働いている建築資材などの金物を扱う会社を、科学工作玩具や理科実験用機材の制作や販売を手がける会社にしたことだろう。そのため、終盤では原作にはない「移動式プラネタリウム」という舞台装置が登場する。
映画館のスクリーンで見れば、劇中の登場人物と同じように「暗闇の中で星を見る」プラネタリウムの擬似体験ができるし、その時のナレーションも、さまざまな「生きづらさ」や「孤独感」を抱えた人たちへの、真摯なメッセージにつながっていた。
同じ悩みや苦しみではなくても、あなたはひとりじゃない
もうひとつ、この『夜明けのすべて』の物語が誠実なのは、(PMSとパニック障害に限らず)個々人の悩みや苦しみは「同じ」ではないし、「簡単にわかった気になってはならない」のだと、劇中のセリフからも提示していることだ。
そのことを前提として、2人は恋人や友達とも違う距離感で、お互いのことを慮り、助け合おうとする。それぞれのアプローチは、きっと現実での職場の人間関係や、人生のいろいろな局面できっとフィードバックできると思う。
その2人の近くにいる、職場の人たちとの距離感もまた、理想的に思えた。特に、光石研と渋川清彦が演じる、2人をそれぞれ見守る優しい上司の姿からも、学べることはあるはずだ。
落ち込んだり、仕事で疲れた時などに、この『夜明けのすべて』を観てみてほしい。
たとえ、他の人と完全に一致するわけがない悩みや苦しみを抱えていたとしても、助け合える誰かがいることで「ひとりじゃない」と思えるかもしれないし、身近な人にも「ひとりじゃない」と教えられるかもしれないのだから。
<文/ヒナタカ>
ヒナタカ
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:
@HinatakaJeF