杉咲花扮する記憶障害の脳外科医・川内ミヤビが主人公の同作で、千葉が演じるのが、救急部長・星前宏太。スタッフ間の円滑剤になるまとめ役を引き受ける、頼れる兄貴キャラだ。
アメリカからやってきた謎の脳外科医・三瓶友治(若葉竜也)が実はミヤビの婚約者であることを探り当てるのも宏太。お節介スレスレで相手の心を開かせる愛すべき人物像を輪郭付ける千葉は、特に何気ない会話場面での好演が際立つ。
ミヤビと竜也と並ぶスリーショットから宏太のクロースアップをカメラが抜くと、千葉雄大そのものみたいな生々しい手触りが伝わる。ここには、これまでの作品のようなあざとカワイイはあまり感じられない。イケメン俳優であることへのカウンター的な演技とでもいうのか。
第3話、ミヤビの記憶をなんとか呼び戻そうとする竜也に対して、宏太がいきなりバックハグをかます場面がある。千葉がバックハグをすれば、そりゃただちにキュン要素になるはずだが、ここではそういう軽々しい印象は排されている。
あるいは自分の専門分野だけでなく全科に精通しようと努力する宏太の葛藤がにじむ第5話。ミヤビとのランチで、全科を網羅したい理由を涙ながらに熱く語る宏太のアップが写り、画面上のエモーションが高まったかと思えば、さっとカメラが引く。深刻な雰囲気を回避するように軽妙に笑って見せる千葉が写る。
なんだろ、この千葉雄大。あざとテクニックなどの小細工は一切なし。自分の演技一本勝負の更地みたいな表情。ここで、俳優デビュー前の足がかりとした『CHOKi CHOKi』での専属モデル修業時代の記憶を引っ張り出しておく必要がある。
千葉がいわゆる紙面を飾るおしゃれキングモデルだった『CHOKi CHOKi』は、2000年創刊のファッション誌。(イケメンであるはずの)モデルたちへのイケメンという形容が極端に制限された稀有なメディアのひとつだった。安易な形容よりモデルのパーソナルな一面をストリートのスナップ写真として多面的にコラージュしていた。
そんな出自を考えると、図らずもイケメンという称号をこれまで与えられてきた千葉が、35歳になった今、『アンメット』でイケメンに対するカウンター的な演技によって、“栄光のキャリア”を更新していることが感慨深くはないか?
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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