朝ドラ『おむすび』を実は支えている“63歳女優”。ドラマ全体を活気づけてくれるワケ
無言の慎ましさをたたえていた場面
逆に声を発しないドラマ作品もあった。『ザ・トラベルナース』第2話、発語が困難な状態になった入院患者役を演じ、中井貴一演じるスーパー看護師による熱心な看護の甲斐あって退院する場面。いつものキムラ節がよりあざやかに感じられた。 変幻自在というのは、単に声色の変化のことだけでなく、こうした作品と場面ごとの雰囲気に合わせて声音の役割そのものを調節する能力のことでもある。さらにいうと、必ずしも声を必要としない場面では、俳優としての大きな強みである声をすっぱり封じることもできてしまう。 第5週第22回では、幼少期の結が地震で被災する。姉・米田歩(高松希)の親友がタンスの下敷きになったことを知る場面では、黙り込んだキムラがメガネ越しにさりげなくさっと右目から涙を流す。そのあと、カメラが動き、画面奥に配置されると、キムラの存在感が無言の慎ましさをたたえていた。 <文/加賀谷健>