
そうした表現性がある程度確立されたなら、次は実写作品で力試しという勢いで出演しているのが、横浜流星主演の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』だと考えるとわかりやすいかもしれない。
本作で寺田が演じるのは、将軍の後継を確保するために設けられている御三卿のひとつ、田安徳川家の田安賢丸である。武士の模範として振る舞い、礼節を重んじる人物。第2回で初登場する場面では、こちらも御三卿の一橋徳川家二代当主・一橋治済(生田斗真)のたわむれに対して「恥を知れ!」と一喝する。
重要なのは、座の笑いをとる治済が写る画面外から一喝の声を浴びせていることである。『屋根裏のラジャー』で確立した中音域の魅力をここでも初登場場面で声の俳優として、その特性を発動する。少年期の武士が相手を一喝する凄みを表現するには、中音域やや低めの声域が役作りにぴったりでもある。

さらに寺田は声の魅力を際立たせるため、無駄な動作を極力控えている。うつむくときはひたすらうつむく。相手を見るときはただ見る。という具合に、ぎこちないほどの動きで演技(動作)の情報量を少なくしている。
その代わり、セリフを発するときには、誰の耳にも聞き取りやすくする。中音域が魅力的であるばかりか、口跡がとてもクリア。逆に声を押し殺して、沈黙しながら喉だけをふるわせる場面でも、時代劇らしい緊張感(リアリティ)を伝える。
敵対する老中・田沼意次(渡辺謙)の策略に激昂する第4回では「今に見ておれ、田沼……」と抑制のきいた怒声を込める。田沼意次が失脚したあと、田安賢丸は、寛政の改革で知られる老中・松平定信として活躍することになる。松平定信の少年時代を演じる計算ずくの演技である。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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