
Netflixシリーズ『離婚しようよ』ページより
近年の注目作で、職業的に官僚と近しい政治家を演じたのが、Netflix配信ドラマ『離婚しようよ』(2023年)である。松坂演じる東海林大志は、有名政治家の3世、体たらく極まりない世襲議員。失言とカメラ前での謝罪会見はセットが当たり前。
人気女優である妻・黒澤ゆい(仲里依紗)がいながら、女性アナウンサーとの路上キス写真をすっぱぬかれ、世間からは非難轟々。以来、ゆいとの夫婦生活は冷えきっている。大志は反省しているのか、どうなのか。ゆいが帰宅すると、靴下はおろか、パンツまで脱ぎ散らかして、ソファでいびきをかいている。
撮影で疲れているゆいの気持ちを考えるまでもなく、これは頭にくる。でも憎めない。なぜか。折り目正しいオタクキャラの一方で、同作の東海林大志役のような、さわやかからっぽ一本勝負でも松坂の演技はピカイチ。
ソファでぐうぐう寝ている場面をよーく観察してみよう。長い手足を何とも器用にソファの各部分に位置させている。ぐうたら演技に余念がない。全体としてはぐうたらで脱力しいるようだが、松坂の演技は、手足の先まで神経を張り巡らしているようにピンとなって美しい。まるで均衡と不均衡すれすれでオブジェ化した彫刻作品のようなぐうたら寝相である。
折り目正しい官僚役ばかりが松坂桃李ではない。むしろ愛すべきぐうたら演技こそが松坂桃李のイメージである。うーむ、これは大河ドラマでもちょっとした細部にぐうたら名演を加味して、さらなるイメージをねらってくれないものかしら。などと勝手に楽しみになってくる。
<文/加賀谷健>