10年前の夏休み以来、再訪する小笠原諸島。俳優を夢見るきっかけになった場所である。小学5年生だった愛流は、父・洋介が出演したドキュメンタリー映画『プラネティスト』(2018年)ロケに同行した。
現在の愛流が海辺で回想する。浜辺の先、海には第二次世界大戦の名残である沈没船が見える。海面ぎりぎりに船体の一部が浮き上がり、『プラネティスト』ではそこに洋介が乗って撮影していたと話す。
愛流が視線を向ける。豊田利晃監督を筆頭に撮影クルーたちが父にカメラを向けていた現場の熱気に大いなる刺激を受けた。愛流は「父親がすごい仕事をしてるかっていう境目」と述懐する。カメラが捉えるフィクショナルな画面空間と現実のロケ地のあわいを感覚的に経験して、そこに不思議な演技の世界が立ち現れる時間を感じたのである。

『窪塚愛流1st写真集 Lila』(小学館)リリースより
『アナザースカイ』窪塚愛流出演回は、そうしたあわいの時間を追想することで、現在の俳優・窪塚愛流が形成された過程を記録する意味合いがあると筆者は思う。彼は今、ひとりの俳優として力強く立とうとしている。
さらに豊田監督から「俳優興味ないのか?」と聞かれた場所に座る。演技の世界に誘った豊田監督が捉えた、愛流14歳の俳優デビュー作『泣き虫しょったんの奇跡』でのみずみずしい名演から、塩田明彦監督がさらにポテンシャルを引き出した『麻希のいる世界』での映画的佇まい。
『アナザースカイ』ラストのインタビューで、愛流は自分のことを「自分はまだ自分の色がないし、それを探してる道中で」と謙遜するが、十分世界観をもっている。
俳優とは、決して個性的な存在である必要はない。むしろ個性とされるものを明確な世界観として提示できるかが重要である。俳優としての大先輩であり、父である窪塚洋介とは違う世界観をもった存在として、「僕の道を僕なりに僕のペースで歩み続けたい」窪塚愛流は独自の表現を磨くのである。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
@1895cu