
というわけで、すこぶる快調なバレエ喜劇である本作には、バレエ男子たちのコミカルな生態を半ばデフォルメする意味でも、合コン場面なんて置かれたりするのである。
第2話冒頭、3人対3人で向かい合う女性たちを前に、八誠とバレエ団の先輩・守山正信(大東駿介)と同期ダンサー・佐々木真白(吉澤要人)が、すっとんきょうな自己紹介で、さっそく酒席を興醒めさせる。
女性たちのひとりが怪訝な顔をして「てか、三人ともなんでそんな姿勢がいいんですか?」と鋭く聞く。八誠は自分たちがバレエダンサーだと知られたらより風変わりな存在だと思われると懸念していたが、職業柄姿勢のよさだけは隠せない。
こうしたシチュエーションはバレエダンサーあるあるなのかはわからないけれど、でもぼくも10年近く前、ある食事会で実際にバレエダンサーを目の前にして座っていたとき、彼らにとっては普通のことである姿勢のよさに目を見張ったものである。ドラマ内の女性質問者による率直な反応に少なからず共感したのは、食事会で座っていたそのバレエダンサーが、何を隠そう、本作のバレエ監修と指導を担当する草刈民代だったからでもある。
本作が放送されているドラマフィル枠公式SNSには、草刈から手取り足取り指導を受ける戸塚の姿を捉えた現場映像がアップされている。画面前景に草刈と戸塚。後景に台本をもったスタッフたち。バレエ練習と撮影現場の確認作業が今まさに渾然一体となるこの風景からは、ここからバレエ喜劇が生まれるんだという臨場感が伝わる。
あるいは、草刈民代公式Instagramには「3週間目にはここまでの動きができるように!」というキャプション付きで、「チャイコン」に合わせて戸塚がバレエ練習に励む動画がアップされている。
こちらの画面では戸塚が被写体となり、フレームの外から指導する草刈の声が聞こえる。ドラマ本編でもフレーム外の存在として監修にあたるわけだけれど、実際の画面に写るバレエスタジオの熱気みたいな有機的空気感には、たしかに監修者の熱い視線が宿っている。
驚くべきことに、草刈は監修と指導だけではなく、映像自体の編集にも関与しているという。例えば、第4話で八誠と愛すべきライバルである真白が切磋琢磨する練習場面がある。カメラアングルをよく見ると、ロング(引き)でもバストでもアップでも、どの画面サイズでもダンサー役の戸塚と吉澤を必ずローアングルで狙っている。バレエダンサーの姿勢、立ち姿、線の美しさがもっとも際立つ最適解のポジションが選ばれているのである。
『キエフ・バレエ支援チャリティー BALLET GALA in TOKYO』(2022年)など、近年の重要なバレエ仕事も深く記憶されている世界的バレエダンサーである草刈民代だからこそ、見定められるアングルがある。
朝ドラ『虎に翼』(NHK総合、2024年)で誠実な豪快キャラを演じた戸塚もやけに姿勢がよかったが、本作ではさらにバレエ的魔法のアングルとポジションという秘技を得て、端的で魅力的な戸塚純貴史上もっとも背筋がピンとした作品になった。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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