移住当初は根拠ない噂がたったことも…「10世帯の限界集落」に移住した家族にきいた”濃いつながり”の良さ
こんにちは、コラムニストのおおしまりえです。
地方への移住には、皆さんどんなイメージを持ちますか。「田舎でのびのび暮らせる」「子育てに良い影響がありそう」など、ポジティブなイメージがある一方で、「地元の濃いつながりに入っていけなさそう」といった、ハードルの高さを抱く人も少なくありません。
今回お話を聞いた近藤さん一家は、2023年に石川県加賀市にあるわずか10世帯の限界集落「今立町」に移住。現在は4歳と1歳の息子さんを育てながら、ご家族で自然体験型の古民家宿「古民家ゆうなぎ」と、乳幼児から小中学生向けの自然学校「かが杜の学び舎ゆうなぎ」の運営、地域コミュニティづくりに取り組んでいます。
近藤さん一家が移住を考えたキッカケは、「子どもの3歳までをどう過ごすか」を意識してのこと。前回・前々回の記事では、移住の決意や準備についてお話を聞きました。今回は走り出した自然とともにある生活のリアルや、心配ごととして上がりやすい、地域とのつながりについて、夫の裕佑さん、妻のなぎ沙さんに聞いていきます。
【特集】⇒限界集落で子どもを育てる
現在の暮らしについて話を聞くと、2人とも「理想的!」といった表現がよく出てきます。まずは、現在はどのような生活リズムなのか、教えてもらいました。
裕佑さん「今の生活リズムは、毎朝6時に起きて、畑で採れた野菜を使って味噌汁を作るところから1日が始まります。7時前くらいに妻と子どもたちが起きてきて、家族そろって朝食を取り、長男を保育園に送ってから、僕は近くの中学校で、午前中だけ支援員の仕事をします」
なぎ沙さん「私は夫と息子を見送ったら、次男と一緒に自宅で宿の掃除や洗濯、宿泊準備をしています。午後になると夫が戻ってくるので、一緒に宿の対応や畑仕事をしたり、DIYをしたり、野草を収穫することもあります。夕方は家族全員でお風呂に入り、夕食、絵本の時間を経て、20時半には子どもたちが就寝。そのあとは夫婦で今後のことを話したり事務をしながら22時ごろに寝ています」
裕佑さん「ここでの生活は、“人間らしい暮らしをしているな”と感じる瞬間が多いです。畑で野菜を育てて食卓に出したり、猟師さんからいただくお肉を食べたり、などです。自然の中を歩いたり、雪かきをして大変さを味わったりと、体を動かしながら生活することになり、『今日も生きたな』と実感できるんです。人類が長く続けてきた“営み”に近い今の生活は、充実感や満足感につながっている気がします」
こうして話を聞いていると、田舎暮らしの経験がない筆者にも、すごく魅力的に聞こえてきます。ただ、地方移住の悩みのひとつが、「ご近所付き合い」であると聞きます。そのあたりの苦労は、実際のところ、どうだったのでしょう。
裕佑さん「移住当初は、暮らしている方との文化的なギャップはありました。集落には既存のルールや習慣があるので、そこへ入っていく難しさは当初感じていましたね。例えば、限界集落には耕作放棄地も多く、一見草原のように見えるところがあります。でも実際は、公道(農道)や細かく農地などに分かれていたりします。公道をふさぐような土地の使い方(道の近くに木を植えてしまったり)をしたり、他人の土地から採集等を行うことは勝手にしてはならないなど、教えていただいて気づかされることも多かったです。
たまに観光客の方や、他地域の方が、草地に入っていって木の実や野草を採集したり、ふらっと他人の土地に入り込んだりする姿を見かけますが、『自分達もそんな感覚に近かったなぁ』と移住当初を振り返ります。確かに考えてみれば、都会であれば他人の家の庭に入り込んで、勝手に何か採っていくとかはしないと思います。しかし、田舎は柵などもないし、草原や森だったりするのでその辺りの感覚がルーズになってしまう気がします。
地元の人達からすれば先祖代々が大切にしてきた土地ですので、その分管理についても厳格になるのだと思います。正直知らないとわからない公道や共有地があったり、田舎ならではの公共物(水路など)もあるので、『こりゃ外から来た人にはわからないなー』と思う時もあります。
僕たちは普段、観光地などで山を見ても、『この山が誰の物か?』ってあまり考えないですよね。でも、山も道も、“誰のものでもない土地”というのは存在しないと改めて教えてもらいました。実際、山の公図を見た時に、細かく土地が分かれていて、びっしりと番地が並んでいてびっくりしたことがあります。
こうしたわかりづらいルールにわずらわしさを抱く方も居ると思いますが、住み続けていく中で、『なるほどこうなっているのか』と腑に落ちることも増えていきます。同時に、移住したてだと、こうした文化的なギャップや習慣的なギャップ、明文化されていないルールなどをきっかけにすれ違いが生まれ、移住が上手くいかないということは日本のあちこちでありそうなことだなと思いました。本当ならその土地になじめる人でも、移住初期のギャップを乗り越えられず移住を断念するケースも多いだろうなと。
現在までの2年間で、話し合いや日々の会話を重ね、少しずつルールを知っていき、ギャップを埋めていっています。厳格さがある一方、親しくなっていくと、『いくらでも採っていっていいよ!』とお声がけいただいたり、お願いすれば『好きに使っていいよ!』と快諾をいただいたり、親切にしていただけることも多々ありました」
朝は畑からスタート。自然のサイクルに寄り添う暮らし

想定外の苦労も。「文化の違い」は対話で少しずつ乗り越える
1
2
この特集の前回記事