「人生を大きく変えたいわけじゃない。ただ、彼とつきあうことで今までと違う心の張りとか、
自分でも思いもよらなかった感情とかがあふれてきておもしろいんです」
ふたりは地域の趣味のサークルで知り合った。ときどきふたりで会うようになってから、彼が他の女性と話しているのを見たとき、ほんの少し嫉妬した。
「ほんの少し、なんですよ。胸が痛んだ。
あ、嫉妬なんて何十年ぶりの感覚だろうってうれしくなっちゃった。それを彼に言ったら、『僕だって、あなたが他の男性を親しそうにしていたら嫉妬するよ』って。

気持ちが動くのは、生きている証拠。長い間、自分の中でわき起こる新しい感情を、経験則で処理してきたような気がするんですよ。驚きもないままに。でも恋って本当に生身のものだから、感情の揺れを体で感じるところがある。それが驚きだし、新鮮だし。自分が70代だなんてことは忘れてしまいますね」
それでもふたりとも理性をなくして恋に溺れようとはしない。サークル内ではふたりが仲よくしているのを周りも知っているが、「佇まいが素敵なふたり」と言われたそうだ。それがとてもうれしかったとユカリさんは言う。
「彼を大事に思う気持ち、愛する気持ちは言葉にできないくらいあります。
でも、そういうナマな感情は自分の中で処理すればいい。ベタついたものが彼と私との間にあってはいけないような気がするんです。若い人たちの恋は見ているだけできれいで躍動感があるけど、それは私たちにはもうない。だからこそすっきりした空気をまとっていなければ、恋が汚いものになる」
ユカリさんはそう言いきる。
その「すっきりした空気」こそが、理性や知性なのだろう。重々しい感情をさらりと笑いとともに流すコツ、我慢せずに粋に振る舞える技術、つまりは感情と理性をどう配分しながらコントロールしていくのか。無意識に振る舞いながらも、それが素敵に見えれば、それはその人の生き方そのものなのだろう。「ベテランの大人」は、すべての言動に、これまでの人生の成果がつまっていると自覚したほうがいいのかもしれない。
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<文/亀山早苗>