“超有名歌手の父”を持つ若手俳優2人の才能と、意外な共通点「うっとりするくらいに…」
わかりやすく勉強になる演技
『泥濘の食卓』にしろ『夫の家庭を壊すまで』にしろ、ドロドロな展開一直線のシナリオ上で、主人公たちはその方向目指してひた走る。櫻井が演じるサブキャラクターも例外ではなく、ドロドロ展開の重要な推進力を担う。 つまり、ドロドロ展開になるために一点集中、物語の加担者として、喜怒哀楽のメリハリがわかりやすい演技が求められる。櫻井のような若手俳優にとっては、一つひとつの感情を結晶化させた一粒の演技に徹することで、演じるキャラクターの感情を分解するレッスンになる。わかりやすい演技でありながらわかりやすく勉強になる演技というわけだ。 そうした役柄の解像度をさらにあげる一助になるのが、もうひとりのサブキャラクターを演じる原菜乃華だった。原が演じる幼馴染役は、恐るべき執着でハルキを追い回す。彼女の執着を振り払おうとするハルキが激しい怒りをあらわにするのだが、それによって櫻井の「怒」一点の芝居が粒立つ。 演技の相乗効果をうんだ原とは、『【推しの子】』(Amazon Prime Video、2024年)でも共演している。今度は『【推しの子】』について語る必要があるが、この作品の櫻井がいわば、『泥濘の食卓』で感情を分解し尽くしたからこその達観した名演だった。
光と密接に関係がある俳優
第2話で櫻井演じるアクアが妹のルビー(齊藤なぎさ)と室外から室内に移動する印象的な場面がある。彼らが室内に入ると、画面奥に広がる室外がやけに明るい(白飛びしている)。 映像のテクニカル的には光量が多いということになるのだが、この光が満たそうとするまばゆい画面上に存在する櫻井がうっとりするくらい神々しい。 で、このうっとり神々しい光の画面から導かれる才能が、宮沢氷魚なのだ。画面上の光との関係性というのがふたりの俳優の共通点なのだが、宮沢は櫻井以上に光と密接に関係がある。というのも、宮沢の演技を特徴づける目の演技と強く関係しているからだ。 例えば、宮沢が球団新人スカウトを演じたドラマ『ドラフトキング』(WOWOW、2023年)で、日差しが降り注ぐグラウンドに入ってくる場面がある。その瞬間、強い陽光が宮沢の目元に差し込んで、見惚れるくらい美しい琥珀色の瞳がくっきりきらめく。光が満たす画面上でこれほどきらめく目の演技ができるのは宮沢くらいだと思う。 あるいは、トランペッター役を演じた『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(TBS系、2024年)第3話冒頭場面。宮沢演じる奏者が、さわやかな田園の中でトランペットを吹く。ここでも絶妙な角度から入り込む陽光(朝日)が、トランペットの金色以上に宮沢の瞳をきらめかせる。 光のオンオフで目と瞳の演技を明確に際立たせる宮沢だが、実は彼の父・和史もまた同じ色の瞳の持ち主。横浜流星主演の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合)で渡辺謙演じる老中の息子役を演じる宮沢は、持ち前のきらめく瞳の演技を逆に温存しているのが面白い。 こうして抽象的な光というテーマで読み解く櫻井海音と宮沢氷魚の魅力がたしかにあるのだ。 <文/加賀谷健>
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