
菅原知弘アナウンサーという、後輩アナウンサーの話をしたいと思います。彼はテレビ朝日の男性アナウンサーとして初めて、長期の育休を取得する決断をしました。
今までは女性だけが育休を取得し、番組を手放すというのを経験している中で、彼は男性でありながら全番組を降板して、自ら育休を取得する選択をし、世の中にその想いを発信していました。
そんな彼に「キャリアを手放すのは怖くないの?」と聞いたとき、こう答えたんです。
「キャリアを手放すことより、その一年で得られる経験のほうが価値があると思うんです」
その言葉に、ハッとさせられました。「育休=キャリアが止まること」と捉えられがちですが、彼の言葉から視点を変えれば、育休はキャリアが広がる機会にもなるのだと気づかされたのです。
思い返せば私自身も、2人目の産休中に娘とオーストラリアへ母子留学をしたり、習得した語学力を活かして通訳案内士の資格を取得したり、かなり有意義に過ごしたなと思っています。
もちろん、産前産後の体調やメンタル状態には個人差があり、誰にでも「学びを」とは言えません。でも、育休期間は「一時停止」ではなく、「人生のギアチェンジの機会」として捉えることも十分にできるんだなと感じています。
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一方で復帰後に感じたハードルも大きかったなと思います。
ニュース番組を担当していたので、情報のキャッチアップなど、産前のような感覚を取り戻すのに難しさを感じたり、生活リズムの変化とか、子育てとの両立という面で、周囲に迷惑をかけてはいけない、というプレッシャーも大きかったように思います。
そんな中でも、一番感じたのは、保育園や学校で感じたいわゆる「母性神話」の強さでしょうか。
つい先日も、保護者会で学校の先生が、「授業中におしゃべりが多い子って、お母さんが家で話を聞いてあげてないから寂しいんですよね」と、さらっと言ったんです。
この発言に、私はすごくモヤモヤが残りました。
「なんで一人一人を見ずに、家庭に要因があると決めつけ、しかも、“お母さん”って限定するんだろう」と。
もちろん、その先生に悪気があったわけではないと思うんです。きっと統計とか、経験則とか、そういうものが背景にあるのかもしれない。
でも私は、「子どもの話を聞いてあげるのは、母親の役割」って決めつけられたような気がして、すごく違和感が残りました。
夫と一緒に保護者面談に行ったとしても、担任の先生が、夫だけに「お仕事お忙しいのにお休みの日までにすみません」と挨拶をする。「いやいや、私も働いてるんだけどな」って。そういった言葉に表れる母親や女性に対する世の中の意識みたいなものに、打ちのめされるような思いをしました。
職場でも、「子どもがいるから海外出張は難しいよね」と、“配慮という皮をかぶった決めつけ”のような言葉に出会うことがあり、チャンスを逃しているような感覚もありました。子どもができた男性にも同じ配慮があるのでしょうか。
復帰してもっとも感じたのは、働きながら母親をしていくことに対する、決して悪気はない社会の無意識のバイアスだったように思います。