16日放送の前編は、産業組合中央金庫の調査課長である主人公・宇治田洋一(池松壮亮)の元に内閣総理大臣から招集命令がくるところから始まる。これは面倒なことに巻き込まれたなと内心思いながら、模擬内閣を作る同世代のエリートたちと一堂にかいする。
総勢35名。キリッと着席する者から少々不安げな様子の者までずらり。俯瞰のカメラが彼らの頭上を捉える。その中に一際背筋がピンとした軍服姿がある。2列目の通路側席に座るその人は、明らかに軍人。海軍少佐・村井和正である。
精鋭たちを集めた総力戦研究所所長・板倉大道(國村隼)から研究所の目的を告げられる。不安げな様子だった若者を中心に動揺を隠さない。隣同士で顔を見合わせて、ざわざわざわざわ。
でもただ一人(実はもう一人、中村蒼演じる陸軍少佐・高城源一も)、村井は微動だにせず着席姿勢を崩さない。黒い軍服が弛緩する隙も見せず、精悍極まる軍人姿に息をのむ。演じるのは、我らが岩田剛典だ。

『連続テレビ小説 虎に翼 Part1 (1)』(NHK出版)
『虎に翼』では寅子と恋仲になりかけた学友にして同僚判事・花岡悟を演じた。岩田はどうも昭和の時代の人物が似合うらしい。本人は1989年生まれの平成世代だが、同作では特に黄金期の古典的ハリウッド映画俳優にも通じるクラシカルな佇まいすら感じた。
平成2年(1990年)生まれの池松壮亮を主演俳優として、平成元年生まれの岩田もまたメインキャストにすえられる。昭和の若手エリートたちがひしめく『シミュレーション』は、平成の才能が見事に結集したキャスティング力に支えられている。
キャスティング上でも精鋭が揃ったところで、昭和のキャラクターを演じる岩田が画面上で存分に気を吐く。『虎に翼』のクラシカルな名演を記憶する視聴者ならなおさらのこと、精悍な佇まいの海軍人姿に名演を名演で上書きする深い感動を覚える。