
前述のとおり、もともと暴力的な彼氏たちが本性を現しただけで、かりんこさんに原因があるとは思えません。それでも、ひどい体験をし続けるうち、かりんこさん側の恋愛観にも変化があらわれます。
かりんこさんの場合、相手から好意を示されて恋愛関係に突入します。この基本スタンスは特にめずらしくはありません。しかし、相手の「好き」の度合いと、かりんこさんの「好き」の度合いがまったくかみ合わなかった時、悲劇が起るのです。
過去、かりんこさんは「自分の人生なのに己の願いが叶わないことがある」という不条理を受け止めざるを得ない経験をしました。両親の管理下にある未成年では、誰も彼もが理不尽な思いを抱くでしょう。ただ、かりんこさんのトラウマは意外に根深く、その後の恋愛に影響したのです。
自分へ向けられた好意はありがたく受け取る、でも自分の好意はどこにあるのか。そもそも「好き」って何? 本書を読むかぎり、恋愛に対するかりんこさんの熱量は、熱くもなく冷たくもなく、常に一定です。熱量MAXな彼からしたら、暖簾(のれん)に腕押しに感じられたかもしれません。
かりんこさんは美しく、強く、楽しく人生を謳歌しています。友人知人も多く、モテるのです。
確固たる自分を持つかりんこさんに、憧れる男性があとを絶たないのもうなずけます。好きになってくれたから付き合う、そのうち自分も好きになるだろうと、お気楽に構えていても、肝心の「好き」がわからない。かりんこさん自身は、相手をもてあそんでいるのではなく、悪気もないのです。
「相手に期待をしないかわりに相手に興味がないんだよ」という、かつての彼の言葉を思い出してみても、過去のトラウマが引っかかります。叶わなかったら? 拒絶されたら? 心の根底で隠蔽されていたトラウマは、バリケードが強固で表面上には出てきてくれません。
そんな時に、救世主ともいえる新たな出会い(現在の夫)がやってきました。