Entertainment

NHK『あんぱん』28歳国民的ミュージシャンの初登場から続く“存在感”。歌唱シーンでは

歌い手ではない「作曲家」を演じる上でのポイント

NHK『あんぱん』©︎NHK 朝ドラ初出演ながら、徐々に音楽的才能を解禁していくことで、大森はすっかりレギュラー出演者として画面に馴染んでいる。同時に彼の身体にも、いせたくやという稀代の作曲家キャラがスッと馴染んでいる感じがある。  いせたくやのモデルになったのは、誰もが知る名曲「見上げてごらん夜の星を」や嵩のモデルである『アンパンマン』の作者・やなせたかしが作詞を担当した「手のひらを太陽に」などを作曲した、作曲家・いずみたくである。  クラシック音楽専門プロダクションに所属する筆者は、作曲家と接する機会が多い。例えば、1995年の「キューピーマヨネーズ」CM曲などを作曲した青島広志。『あんぱん』にも「手嶌治虫」の名前で嵩がライバル視する手塚治虫原作『火の鳥』をオペラ化した。  間近で演奏を見ていると、作者自らが愛を込めて解釈する情感がある。つまり、作曲家の心が表現できるかどうか。歌い手ではない作曲家を演じる上でのポイントだ。

俳優として音楽愛を育むアカペラ場面

 第20週第99回ではまさに作曲家の心がしめやかに表現される場面がある。名調子でご機嫌にしゃべり倒す六原永輔(藤堂日向、モデルは永六輔)が演出、たくやが音楽監督、嵩が舞台美術を担当するミュージカル公演。  公演本番前日のリハーサルで六原が大幅な修正指示をだす。休憩時間にロビーのベンチに並んで座るたくやが嵩にこう言う。「いいものを作る。これを言われちゃうとね、弱いんですよ」。多くの人々を自らの曲で幸せ色に染めてきた大森だからこそ、込められる説得力ある台詞だ。  休憩後に、急ごしらえで完成させた曲をたくやが作曲者としてアカペラで歌う。ミュージカル公演のタイトル曲「見上げてごらん夜の星を」。舞台上に立つたくやをローアングルのカメラが捉え、1分30秒ほどの長回しで大森のアカペラ歌唱を丸ごと写す。  俳優として作曲家を演じる心構えが音楽愛を育み、現実にスター歌手である大森が歌う圧巻の場面に感動した。 <文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修 俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
1
2
Cxense Recommend widget
あなたにおすすめ