
NHK『あんぱん』© NHK
包容力ある身体がどっしり支える佇まい自体も声と同様に魅力的な要素だ。時代は江戸から明治に変わった。松江随一の名門とはいえ、何かしら商売をしなければならない。そこで傳は織物業を始め、困窮する松野家からトキを雇い入れる。
度々、工場の様子を見に来る傳が、長い通路をいったり来たりする。一歩ごとに主人の風格を刻みながら、とにかくいったり来たりする。第2週第6回から第7回にかけて、ほとんどこの移動だけを繰り返している。
雨清水傳役の威厳と風格、少しお茶目な雰囲気を醸す佇まいが、シンプルな動きをとびきり見惚れる要素に仕上げる。第7回では「ランデヴー」だと言ってトキを連れだす。ゴツゴツした石段を上がる場面で、引きの位置のカメラが、ここぞとばかりに堤の佇まいを際立たせる。
石段を上がる引きの画面ではもう一つ目を引くものがあった。カメラがハイアングルで向けられていてもわかる、なだらかな肩のライン。堤真一は、なで肩の俳優なのだ。
ただのなで肩俳優ではない。なで肩は、スーツなどの洋装より、俄然、和装でくっきり浮きでる。そのしなやかなラインは、たとえば、東映任侠映画で活躍した大スター、鶴田浩二のなで肩にも比肩すべきものだろう。
同回、トキのお見合い場面で両家の仲人役を引き受ける傳をカメラが画面中央に捉える。ものすごくなで肩。ディープな声色を持ち、ダイナミックな佇まいを備えた魅力を丁寧にはめ込みながら、本作の堤真一はなで肩名優としての風情を湛えていている。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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