シャスタ山に向かう車内で杉野は、この山に引き付けられる理由を「なんか行きたい」場所だからと言語化していた。本人もなぜ行きたいのか、明確な理由がわからないのだと。それだけに言葉を超えた体験がそこにはきっとあるんだという杉野の直感が裏打ちする。
クリスタルガイザーの源泉を口にして、もう1か所寄り道をする。ネイティブアメリカンの儀式「スウェットロッジ」を体験するためだ。
山林の真ん中にテントを立て、その中で熱した石で蒸気を立たせる。外界と遮断されたテント内の暗闇の中で、歌声に合わせて踊り、心身を浄化することで、新しい自分に生まれ変わるという。
軽装した杉野がテント内に入る。室内温度は100度にも達する。石を追加しながら無心で身体を揺らす。その様子を捉えたカメラの映像は、確実に杉野遥亮という存在の内側に迫りつつある。
テント内から出てきた杉野が外の空気にふれ、上手側に歩いていく。ほとんど放心状態。「何か行きたい」場所での圧倒的な脱力感を経てこそ、アウトプットできる言葉がある。
ここまでの体験を経て切実な言葉を紡ぐエネルギーが十分チャージされた。脱力した杉野がカメラの前で雄弁に語りだす。背景には山。水辺に座る杉野の顔に少し重々しいくらいの表情が浮かぶ。
デビュー以来、俳優として一歩、また一歩とステップアップしてきた。その過程で彼は、自分が他者からどう見られているのかを過度に気にしてきたと吐露する。
それは、芸能界の中での立ち居振る舞いのことでもあるだろうし、純粋に俳優としてカメラの前に立つとき、自分が今どんなフレームの中で収まっているのかといった技術的な感覚なども含まれるだろう。
俳優とは自分がどう見られているかを徹底的に突き詰めるプロフェッショナルだが、『アナザースカイ』のカメラ前で心中を語る杉野は、俳優以前に一人の人間として振る舞っている。
彼はさらに自問自答する。「自分がどう思うとか内側から出るものじゃなくて、外側のことばっかり考えていた」。2023年には突如として公式Xアカウントを削除したことが話題になった。
杉野はその理由をまさに「僕の仕事って、自分のことを自分で宣伝して、反応をチェックするんじゃなくて、自分自身に向き合って、出た表現で、皆さんにお届けすることだと思うんですよ」と説明していた。
30歳の節目を迎える2025年まで杉野らしい答えがこうして深められた。杉野遥亮にとって俳優という仕事イコール嘘のない人生観なのだなと思った。
<文/加賀谷健>