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死刑判決を受けて「バンザイ!」と叫んだ23歳女性―たったひとりで国家と闘った金子文子を、没後100年で映画化した理由|浜野佐知監督✕菜葉菜・対談

文子の思想を紐解き、エピソードやストーリーを練り上げた

浜野:そういえばクランクインまで2ヶ月を切ったあたりだったかな。ある女性センターで私と菜葉菜さんがゲストで『百合子、ダスヴィダーニャ』の上映会があったんですが、菜葉菜さん、出番待ちの舞台の袖でずっと金子文子の台本を読んでたよね(笑)。 浜野佐知監督と菜葉菜さん菜葉菜:不安でいっぱいだったからですよ(笑)。私はわりとスイッチのオンオフがはっきりしているのであまり役を引きずったりはしないほうなんですが、今回ばかりは文子のことしか考えられなかった。途中で事務所の社長に「ちょっと出来る気がしません」と訴えたこともあったんです。 浜野:私が何か言うとかえって菜葉菜さんが混乱するんじゃないかと思って黙っていたんです。大丈夫だと信じていましたし、それに悩んでもらわないと、とも思っていたんです。はい、わかりましたと軽く言える役じゃないから。 菜葉菜:私は監督の文子への熱量や情熱をわかっていたから、とにかく監督の思う文子像を演じられるかどうかが不安でしたね。でも初日につかめた感じはしました。山﨑さんが素敵な脚本を書いてくださったおかげで。 浜野:下調べなど脚本になるまで2年、脚本になってからも完成まで1年くらいかかっています。獄中手記以外、文子が残した資料がないんですよ。だから、予審調書や裁判記録をベースにして文子の思想を紐解き、自死する前に詠まれた短歌をもとに、脚本家が死に至る女子刑務所での文子の心の変化や、エピソードなどストーリーを練り上げていったんです。

怒りという暴れまくるものを抱え、エネルギーを思想に結びつけた

菜葉菜:文子は活動家だから、ただ怖い人になりがちだけど、文子の向上心や人柄もきちんと表現されていました。私はその脚本を崩さないよう、きちんと見せなければと思っていました。文子は友だちや同志といるときは感情豊かで明るかったと言われている。ひとつだけの顔じゃなくて、人間・文子のいろいろな面を見せたいと思っていました。 浜野:現場での菜葉菜さん、本当に文子が乗り移っているみたいでした。さまざまな表情が菜葉菜さんから文子として出てくる。ふだんの菜葉菜さんを知っている私からみると、文子の根っこにある「与太者的なところ」が菜葉菜さんにあるのか、というところがいささか心配だったんですが……。 映画『金子文子 何が私をこうさせたか』菜葉菜:山﨑さんには「野性味」と言われました(笑)。 浜野:文子は、朴烈と「不逞社(ふていしゃ)」を作ってからは銀座あたりでカツアゲみたいなことをしたり、広告を取りにいって相手を脅すようなこともしている。そこが菜葉菜さんにあるのかなと。演技だけではどうにもならない、人としてのたくましさ、いい意味でのずる賢さみたいなもの……。 菜葉菜:あります(笑)! 決していい子ちゃんじゃないところが。 浜野:ね、あったんですよね(笑)。あの時代の婦人運動家というと、管野スガとか伊藤野枝とかが浮かぶけど、彼女たちはどこかアカデミックな香りがある。でも文子は違うんですよ。自分の中で怒りという暴れまくるものを抱え、そのエネルギーを思想に結びつけたのではないか、そういうタイプの活動家なのではないかと私は考えているんです。そこが好きなんですけどね。 <取材・文&人物写真/亀山早苗>
亀山早苗
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
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