こうしたSOSに対して、一方的に親御さんを責めることをせず、松原さんは包括的なサポートを行ってきた。
まず相談を受けると、親子の状況を確認しつつ、子どもを育てられないか説得を試みる。前述した通り、相談者のなかには、医療の受診を拒否している場合や、母親が精神的に不安定なケースも多い。緊急性を要すると判断した場合は、遠方であっても可能な限り全国各地を飛び回る。
両親の説得が難しい場合は、専門里親(虐待や障害などの理由で専門的なケアが必要な子を養育する)や、特別養子縁組(家庭裁判所の審判により実の子と同じ法的な親子関係を結ぶ制度)などの受け入れ先を検討していく。担当医など第三者の意見を踏まえつつ、客観的に必要性を判断して養親を募る。
受け入れ先が見つかるまでの期間も、親子のサポートは欠かせない。妊娠中であれば産婦人科の受診に同行したり、出産を終えている段階であれば治療を受けてもらうよう説得したりする。
その後、無事に受託先が見つかれば、養子縁組の手続きなどを行い、引き渡しして一件落着……。というのが、大まかな一連の流れだ。もちろんケースバイケースではあるが、実親から養親へつなぐ手助けを行っている。
一連の支援を行うなかで、実親が子どもを手放す瞬間にも、多々立ち会ってきた。
「最初は子どもを受け入れられなかった両親が、引き取り先が決まって別れが近づいてきた際に、病室で子どもを抱っこしている光景もありました。そうした瞬間は、子どもが生まれてきて良かったと、どこかホッとします。
引き渡した後も、子どもの誕生日に毎年、プレゼントを贈ってくれる実親もいます。その方は当初、面会すら来なかったのですが、結果的に今でも実子のことを思ってくれるのは嬉しいですね。
反対に、最後まで子どもとの面会を拒絶するご両親のほうが多いのも事実です。最後まで『手違いで子どもが戻ってくることはないか』と確認されるお父さんや、医療費を払わないまま連絡もそれきりの家庭もあり、実親さんの気持ちはさまざまです」

親子間の悲喜こもごもを見届けながらも、松原さんの役割はいったん終わる。
しかし現状として、養親が見つかるのは、体感値で10%前後だという。司法統計年報の発表によれば、2024年の特別養子縁組の成立件数は563件とされている。ただ、松原さんの実情では、障害児であればハードルは一気に高くなるという。
松原さんは「医療的ケアが必要な子どもは、日本全国でも頼れる場所がほとんどない。それほど行政も法整備も、障害を抱えた子どもを前提として動いていない現状にある」と嘆く。
活動を続けるなかで、養親が見つからないケースにも直面した。そうしたなか松原さんは、自身で特別養子縁組を結び、現在2人のダウン症に加え、重い心臓などの合併症を抱えた子どもを育てている。
年間50件のSOSは、いまも届き続けている。養親が見つかるのは約10件に1件。残りの命がどこへ向かうのか、松原さんが追えないケースの方が多いのが現状だ。
障害を抱えた子どもを産む、育てる、手放す──。その選択のどれもが、追い詰められた末の決断だ。正解を問う前に、せめてその決断を受け止める場所が、社会にはもっと必要なのかもしれない。
<取材・文/佐藤隼秀>