
お通夜に来た顧問と副顧問の発言を両親が記録したもの
その場にいた副顧問が唯一、暴走を止められたかもしれない大人だ。
剣太さんが顧問に平手打ちをされているとき、副顧問は、そばへ近づいていったという。だが顧問は、その副顧問に向かって言い放った。「先生、心配せんでいい。こいつ、演技やけん」。その一言で、副顧問は、それ以上、踏み込めなくなった。
裁判で、副顧問はこう述べた。
「僕はあまり部活動に出られないので、こんなものかな、と思って見ていました」
なぜ止められなかったのか。理由のひとつは、部員たちが声を上げられなかったのと同じ、恐怖だと私は思う。強い指導者に逆らえば、自分も標的になりかねない。
もうひとつ、奈美さんはこう話す。
「あの副顧問は、生徒たちからするとすごく優しくて、いい先生っていうわけよ」
生徒に慕われる優しい人。その人柄が、あの場では裏目に出たのかもしれない。だが理由が何であれ、結果として、一番助けられる立場の大人が、動かなかった。
お通夜の席で、親族の一人が問い詰めた。
「あの場にいて、なぜ止めなかったのか?」
副顧問は、仏壇の前で、三度同じ言葉を繰り返したという。
「止めきりませんでした」
「子どもを人質に取られているようなもの」親も声を上げられない現実

家族で「愛・地球博」に大分から名古屋まで夜行バスで移動している中学1年生(13歳)の剣太さん
学校の中で起きていることは、親からはなかなか見えない。それなら、家庭で日ごろから子どもとよく話しておくことが、少しでも子どもを守ることにつながるのではないかと私は投げかけた。
だが、奈美さんの答えは、はっきりしていた。
「家庭でそういう話を増やしても、無理と思うんよ」
理由は、部活動という場そのものの構造にあるという。子どもは「強くなりたい」「うまくなりたい」と願う。親もまた、「レギュラーになってほしい」「試合に出てほしい」と願う。その願いがある限り、指導者に対して親は下手に出るしかなくなる。
「親が何か言ったら、レギュラーから外されるんやないか、と思うわけよ。だから親は下手に出るし、持ち上げるし」
父・英士さんは、「子どもを人質に取られてるようものだ」と話す。声を上げれば、我が子が不利益を被るかもしれない。スポーツ推薦で入学していれば、なおさら何も言えなくなる。保護者同士の間にも「あそこの親はうるさい」という空気が生まれ、声を上げた家庭は邪魔者扱いされていく。