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有働アナが独白本でぶっちゃけた“中年独女のドロドロ”

 10月15日放送のNHK『あさイチ』での“イノッチ、セクハラ批判”は大変な話題となりました。“もうこれ以上有働アナを年齢に絡めていじるな”といったトーンで、その男気に多くの視聴者も賛同したのでした。  しかしよくよく考えてみたら、このイノッチの勇気ある発言が『あさイチ』の根幹を揺るがしかねないとも思えてきます。数ある他局の情報番組と一線を画してきた多くの部分を、有働由美子アナのキャラクターと能力に頼ってきたからです。それこそセクハラすれすれのやり取りも、有働アナの機転と瞬発力で笑いに変えてしまう。それが楽しみで番組を観ていたという人も少なくないでしょう。  確かにイノッチの意見はほぼ100%正しい。だとしても、「ほぼ」と言ってしまうところに、もしかしたら『あさイチ』の独自性があったのではないか。大変に難しいところですが、ここはひとつご本人の言葉を聞きたいところ。  そこへタイムリーに飛び込んできたのが、有働アナ初の著書『ウドウロク』(10月31日発売)。「男性が読んだら中年女が怖くなり、順風満帆に幸せになった女性が読めば、軽蔑する」とご本人が太鼓判を押す「四十半ばの女のひとりごと」はページを占める多くない行数と小さくない余白に反して、なかなかにヘビーです。

デート中にむけた指の皮が捨てられない

ウドウロク(有働 由美子) たとえば夕飯の買い出しに行ったスーパーマーケットでの一コマ。子供連れの母親たちが4、5人分の食材でカゴをいっぱいにしている中、有働アナの買い物は一人で食べきる分だけ。それを目にした子供の冷酷な一言が突き刺さります。 「おかあさん、この人のかごはさびしいね」  さらに独り身の中年が高熱を出すと「かわいいんでもなく、憐れでもなく、汚いんだな……。」との悟りに達するエピソードには共感する人も多いのではないでしょうか。そんな冷静な有働アナですが、物に対する執着心がすごいようで、昔の恋にまつわる思い出の品々は保存してあるのだそう。それでも「デート中に指の皮がめくれたとき、一緒にむいたその皮」まで捨てられないとなると、阿部定寸前です。  そんな中、はっとさせられるのが「母のこと」というコラム。ガンに侵された母の神経に麻酔を打てば、痛みから解放されるかわりに、自分が母親と話せなくなってしまう。だからその麻酔を決断できなかった。そのことを、彼女はこう後悔します。 「最後の最後まで、自分のエゴのために母を痛めてしまった。 死後さえも、自分を責めることに集中することで、喪失の悲しみから逃げていた。」  月並みな物言いになってしまいますが、大変に厳しい自己分析です。自分の年齢はおろか、にじみ出るわき汗をも取り込んで番組を作り上げていく献身の陰に、このような物の捉え方があることは見逃せません。  そんな彼女に向けて、ポリティカリーコレクトなセクハラ批判で女性としての尊厳を守ろうとする平板な男気は、本当に響いているのだろうかとも思ってしまう。もっとも、有働アナがイノッチに対して全幅の信頼を置いていることは本書でも存分に語られているのですが。  ともあれ、『ウドウロク』に記された独白の多くは、真剣であるがゆえに笑える。しかしその裏でどろどろとした怨念とも悩みとも諦めともつかないモヤモヤがうごめいている様子がうかがえます。とても読みやすい文章ですが、読後感は決して軽くない。確かに中年女の恐ろしさの一端がうかがえる本ですが、これを読んだ後に有働由美子アナを軽蔑する人は、老若男女を問わずいないはずです。 <TEXT/比嘉静六>
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ウドウロク

自他ともに認めるクロい部分も、ちょっとだけあるシロい部分も、包み隠さず書いてみました。初めての本!書き下ろし。
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