不動産屋の“熱い男”に恋をしそう…【シングルマザー、家を買う/5章・後編】

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 少々待たされた後、なぜか駆け足で出てきたのは、ラガーマンのような風貌の若い男性だった。その男性は、入り口でベビーカーを前に仁王立ちする私の空気に、何かただならぬものを感じたらしく、「は、話を聞かせてもらえますか」とどもりながら奥の商談室へ通してくれた。

 そこで私は、A店で門前払いを受けたこと。今の貯金がまったくないこと。シングルマザーになりたてのこと。この子達に、雨風がしのげる家を与えてあげたいということ。そして、なにより私がフリーランスのライターであり、将来が不安なことを1時間ほどかけて語らせてもらった。

 途中からなぜかそのラガーマンがすごく親身になってくるものだから、ちょっとしたこともドラマティックに語ってしまった。しかも、家を買うにあたってまったく関係ない離婚した理由まで雄弁に話し出してしまったのだ。まったく、私の悪い癖だ。

「家を売るのが仕事です!」。ラガーマン、熱く語る



 そしてA店に対し、ライバル店ということもあったのか異常に敵対心を燃やしたラガーマンは、今までにないデカい声でこう私に言った。

「家を、売ってみせます! 絶対に!」

 今考えると、なぜ倒置法だったのかもわからないし、なぜ、あのときあんなに一体感が生まれたのかもよくわからない。でも、閉店間際でラガーマンも早く切り上げたかったのか、すごく熱っぽくなっていたことは事実。あのとき、私とラガーマンがあの駅で一番熱くなっていたことは間違いない。

 その隣で1歳の息子はベビーカーでスヤスヤと眠りだし、3歳の娘はノンタンをすでに何十回も音読している。物語をすでにソラで言えるくらいだ。ノンタン、おねしょしすぎである。

 その後、ラガーマンは何を思ったのか「家を買いたい人に売るのが僕らの仕事なんです。だからこそ、欲しい人が買えないってことがあってはいけないと思うんです」と熱く語ってくれた。

 その姿を見て、普段は細くて折れそうなバンドマンタイプが好きな私が、マッチョで体育会系のラガーマンに恋をするかと思った。熱い男は素敵だ。松岡修造に対して“熱すぎ~”なんて言っている人たちも、絶対目の前にして自分を熱く守ってくれたら好きになるに違いない。だって、そんなに情熱を自分に傾けてくれるなんて、そうそうないでしょ! 

 まったく反応が返ってこない、1年間にまとめて4時間くらいしか話さずに、全てに対して“暖簾にうで押し”な“のれん男子”と私が勝手に命名していた元旦那とはまったく違うタイプである。もはやいろんな感情がうごめいて、目的がなんだか分からなくなっていたころには、すでにM店に入ってから2時間は経過していたと思う。

 そして、ラガーマンは一拍おいて、こう言った。

「とりあえず、明日、家を見に行きましょう」

 ラガーマンはそのとき、私に最高の笑顔を見せてくれた。すごく歯がキレイだった。



TEXT/吉田可奈 ILLUSTRATION/ワタナベチヒロ>

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【吉田可奈 プロフィール】
80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、音楽ライターを目指し出版社に入社。その後独立しフリーライターへ。現在は西野カナなどのオフィシャルライターを務め、音楽雑誌やファッション雑誌、育児雑誌や健康雑誌などの執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘はネットで見かけた名言“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(@singlemother_ky

※次回更新は1月28日を予定しています。

シングルマザー、家を買う

年収200万円、バツイチ、子供に発達障がい……でも、マイホームは買える!

シングルマザーが「かわいそう」って、誰が決めた? 逆境にいるすべての人に読んでもらいたい、笑って泣けて、元気になる自伝的エッセイ。




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