一口食べて「うまくてまずい」と思った。
ここで言う、うまい、とはもちろん味が美味い、そしてまずい、というのは状況のことである。
餅とバターという、パワー&パワーな原材料を使いながら、バター餅は決して派手な味ではないのだ。ほのかな甘みに、過剰すぎないバターの風味が追いかけてくる。美味い。
そして、地味に美味い、というのは逆に言うと永遠に食い続けられるということだ。餅とバターを永遠に食ったら、あとはお察しのとおりである。
餅であるから、結構な物量があるにも関わらずあっという間に1パック食べてしまった。これはまずい。
北九州に行くと必ず堅パンを買ってしまうのと同じように、秋田に行ったらマストで買ってしまう、そんな食べ物である。
ただ私が秋田の梅林園に行った場合は、もう二回目はない、ということになるが、もしそれ以外で行くことがあったらぜひ購入したいと思う。
ちなみに今回送られてきたバター餅は「もちもち三角」という「北秋田推奨特産品」に指定されている商品だ。
パッケージには、おばあちゃんの絵が描かれている。
ノスタルジー感を出すために、パッケージに、誰かもわからない、模範的老女の絵が描かれている商品は結構ある。
しかし「もちもち三角」は指定された2人の作り手(2人ともおばあちゃんらしい)が作ったもの以外は推奨品ではない、ということらしい。
つまり選ばれしババアが作ったもの以外は、もちもち三角ではないのだ。もはや人間国宝である。
パッケージに描かれているおばあちゃんは、その2人の内の1人ということなのだろう。なぜ2人描かなかったのか疑問であり、もしかしたら、その2人とは全く無関係の模範的老女絵なのかもしれない。謎は深まるばかりだが、その2人に会わない限りは謎は謎のままである。
しかし、2人って大丈夫なのか。
今は落ち着いているだろうが、テレビで取り上げられた時など相当な忙しさだったはずだ。
少し調べてみたが、指定人数が増えたという情報は得られなかった。
しかし「諸事情により1人になりました」というニュースを見るよりマシだ。これからも2人で、この禁断の果実を作り続けてほしい。
<文・イラスト/カレー沢薫>
【カレー沢薫(かれーざわ・かおる)】
1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『
クレムリン』で漫画家デビュー。自身2作目となる『
アンモラル・カスタマイズZ』は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。主な漫画作品に、『
ヤリへん』『
やわらかい。課長 起田総司』『
ねこもくわない』『
ナゾ野菜』、コラム集に『
負ける技術』『
もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』『
ブスの本懐』などがある