きゃりーぱみゅぱみゅの「ゆめのはじまりんりん」はパクリを超えた“確信犯的コピペ”?
1月29日に発売された『すべてのJ-POPはパクリである』(マキタスポーツ著)に合わせるように、突如として巻き起こったきゃりーぱみゅぱみゅの新曲『ゆめのはじまりんりん』(2月26日発売予定)の“パクリ”騒動。曲を聴いたネットユーザーからは、「AメロがGAOの『サヨナラ』そのまんまだ」といった指摘が相次ぎ、「作曲者の中田ヤスタカは事前に調べなかったんだろうか」とか「一体どうしちゃったんだろう」と心配する声まで上がりました。
確かに、この2曲は似ています。似ているというよりも、同じです。『ゆめのはじまりんりん』のAメロは、『サヨナラ』のAメロなのです。
つまりこのメロディは、パクリですらなく、コピー&ペーストされたものであると捉えるのが正解であるように思われます。
しかし、これは当然のことながら、中田ヤスタカ氏による確信犯的な伏線の張り方なのでしょう。それはサビの歌詞から明らかになります(リリース前なので聴き書きです)。
<グッバイ ティーチャー マイフレンド ありがとう 勇気ください>
曲のリリース時期からして、卒業ソングとして制作されたことは明らかです。なのですが、そこに工夫と努力と入魂の痕跡は、微塵もありません。人を食うことすら放棄し、紋切型とすら呼ばせない語句のチョイスと、それらを文として接続させることなく並列のまま放置しておく無関心の豪快さ。
そして注目すべきは、冒頭の“グッバイ”です。もうお気づきでしょう。これは、サヨナラの歌なのです。だったら『サヨナラ』(GAO)から始めてみよう。それだけの話であるように思われます。むしろ歌詞同様に、何のひねりも加えずにそのメロディを裸のまま置いておくことに、作者の本心があると感じられないでしょうか。
恐らく中田氏は、過去に発表されたどんな卒業ソングも、メロディと詞の両面において、要約すればそれ以上でもそれ以下でもないと断じているのでしょう。さらに言えば、たかだか学校生活が終わることに、どうしてそこまで過剰な意味付けができるのだろうかという、その疑問を呈することすらアホらしいと考えている。
この、“パクリ”をもあざ笑うコピー&ペーストという手法は、そういった聴き手に対する疑いと仄かな憎しみが支えてると言ったら言い過ぎでしょうか。
●サヨナラ/GAO【公式】
⇒【動画】http://www.youtube.com/watch?v=H8a2k0cGmew
※『ゆめのはじまりんりん』の動画は各所で削除されているが、ゲリラ的に2曲を同時再生した動画もチラホラ。Aメロは完璧に一致している
これより時期を少し前にして、アメリカでもある曲にまつわる“パクリ”騒動が起きていました。ロビン・シックの2013年の大ヒット曲『Blurred Lines』が、マーヴィン・ゲイの『Got to give it up』に酷似しているということで、ゲイの遺族が訴訟を起こしたのです。もっとも、当初遺族にその意向はなく、彼らの弁護士がけしかけたとも言われているのですが。
いずれにせよ、これはいささかロビン・シック、並びにプロデューサーであるファレル・ウィリアムスがかわいそうになってしまいますね。というのも、『Blurred Lines』のPVは、明らかに『Got to give it up』の内容を反映した、セクシャルな構図になっているからです。音の種明かしとエクスキューズが映像でしてあるのですね。オマージュと呼ぶには軽薄過ぎるきらいはありますが、これを盗作とするのは野暮の極みでしょう。
しかし、この問題は、音楽的かつ法的に穏やかに解決し得るものではあります。同時に、これが明らかになったことで、マーヴィン・ゲイという名前を初めて知る若いリスナーも現れるかもしれません。確かに訴訟沙汰の騒動ではありますが、建設的であると言えなくもない。それも含めて、ひとつのエンターテイメントを形成しているのです。
『ゆめのはじまりんりん』と『Blurred Lines』。見出しをつければどちらも“パクリ騒動”となるのでしょうが、その背景にある音楽の聴かれ方には、大きな隔たりがあるように思われてなりません。何の加工もせずに野ざらしにされたGAOの『サヨナラ』と、幼稚園児に読み聞かせるようなサビの歌詞は、中田ヤスタカからの重たい問題提起であると受け止めるべきでしょう。
●Robin Thicke – Blurred Lines ft. T.I., Pharrell
⇒【動画】http://www.youtube.com/watch?v=yyDUC1LUXSU
●Marvin Gaye~Got to give it up
⇒【動画】http://www.youtube.com/watch?v=wRcVQDELAd4
http://www.youtube.com/watch?v=wRcVQDELAd4
<TEXT/音楽批評・石黒隆之>
「グッバイ」で始まる単語の羅列
パクリをもあざ笑うかのような中田ヤスタカの本心は?
アメリカで訴訟沙汰になっている“パクリ騒動”との違い
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4