送迎車はじわじわと動き出し、いつの間にか指名のお客さんのいるホテルに到着をしていた。よく呼んでくれるサラリーマンだ。
「こんな時間にごめんね。明日から出張で当分こっちにいないんだよ」
あたしは満面の笑みで首を横にふり、「いいえ、あたしも会いたかったですよ!」と快活に口にした。
「いやさ、今日さ、仕事でめちゃくちゃヘコんでいて、ぺろちゃんに元気をもらいたくて呼んじゃいました」
髪の毛を掻き上げる癖のある山中さんの笑顔が好きだ。
「そうですね! だってあたしいつも元気ですものね。なにせ、ばかだしね」
と、付け足す。へらへらと笑い、犬のように尻尾をふりながら。

「ぺろちゃん」
山中さんが真面目な顔であたしの名前を呼んだ。声が真剣だ。
「ばかじゃないからね。ばかなんて言わないで。ぺろちゃんのような風俗嬢さんたちがいるから、サラリーマンが犯罪を犯さないでいられるんだよ」
と、言葉を吐いた後、
「犯罪は大げさだったぁ~」
と、自分の頭を叩いて笑いをとった。
「少なくとも俺はぺろちゃんにエネルギーをもらっていますよ」
山中さんはそうっとあたしを抱き寄せるや、額にキスをした。一回りも上の男性に慕われるなんて、風俗の仕事をしていなかったらありえない話だろう。
あたしは自分を、自分の過去を戒めるために、身体を酷使してきた。汚い身体をイジメたくて壊してきた。
けれど今は違う。この身体を使い、男性を喜ばせたいと思う。心も身体も。全て晒け出せる風俗嬢に。
まだ22歳だ。
お金を貯めていつかは高校卒業の資格をとりたいと思い、勉強中だ。
あたしの未来は明るいと信じている。
必要としてくれる人がいるかぎり。
<TEXT/藤村綾>
【藤村綾】
あらゆるタイプの風俗で働き、現在もデリヘル嬢として日々人間観察中。各媒体に記事を寄稿。『俺の旅』(ミリオン出版)に「ピンクの小部屋」連載、
「ヌキなび東海」に連載中。趣味は読書・写真。愛知県在住。