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仙台「萩の月」激似の菓子が全国に50もあるらしい【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」】

なぜ「萩の月」に似てしまうのか

 生まれは昭和54年(私より年上なのでパイセンである)。  当時一番人気の洋菓子であったシュークリームと贈答品として人気のあるカステラを組み合わせた、カステラ生地にカスタードクリームを包んだ一品である。  その形状を満月に見立て「萩の月」と名づけられたそうだ。  カステラにカスタードクリーム、不味いはずがない。実際食べたらやはり美味かった。そしてこれは、子どもの時食べても美味いと感じただろうし、80歳になって食べても美味いと思うだろう、私の歯が1本でもあれば。  菓子は年代によってウケるものが違う。かりんとうを与えられて喜ぶ子どもは少数派だろうし、ねるねるねるねでテンション爆上がりする老人も少ないだろう。その点萩の月は老若男女受け入れられそうだし、海外の方の口にも合うんじゃないだろうか。土産物としては最適である。  似たようなものが多いというのは、それだけ広く受け入れられているということである。  なんでも斬新であればよいと言うわけではない。  新しい大爆笑ギャグを見つけたと思っても、ググってみたら同じことを考えている奴が100人ぐらいいるものだ。だがそれだけそれを面白いと感じた奴がいるということである。  逆に検索結果「0件」のギャグがウケるかというと、ギャグにすらなってない場合が多い。 「スポンジ生地に砂利を包んだ菓子」なら、類似品はないだろうが、もちろん売れないはずである。

中身はそれぞれがオリジナリティを出している

 よって萩の月の類似品が多いのは、それだけ良いものだから、という単純な理由もあるだろうが、調べてみると、もう一説あった。  萩の月製造マシーンを作っている会社と、萩の月の会社は現在契約が切れているため、萩の月製造マシーンは、他の会社でも買えるらしいのだ。つまり、萩の月的菓子は作りやすいのである。  結構ファジーな理由であったが、もちろん萩の月に若干似ている菓子を出しているところも、萩の月を完コピしてやろうとは思っていないようで、(そのつもりだったら「荻の月」とか言って売るはずだ)例えば先のタイムズスクエアなどは、北海道の小豆を入れたり、抹茶味を出したりとオリジナリティを出しているし、月でひろった卵も栗を入れている。  このように模倣から新しい発想が生まれることも多いので、なんでも盗作だと言って芽を摘み取ってしまうのも考え物である。  だがもちろん権利を主張するのも悪いことではない。しかし、萩の月に似ているという菓子は50以上あるのだ。これら全てを相手取り、訴訟などを起こしていたら、確実に萩の月を作る時間がなくなるだろう。 <文・イラスト/カレー沢薫> 【カレー沢薫(かれーざわ・かおる)】 1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。主な漫画作品に、『ヤリへん』『やわらかい。課長 起田総司』『ねこもくわない』『ナゾ野菜』、コラム集に『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』『ブスの本懐』などがある
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