浜松「すっぽんパイ」、執念の再々チャレンジ【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」】
<2015年に制定された「うなぎパイ職人師範制度」の初代師範 野末三知夫と、若きパティシエ2名が互いの知恵と手わざを出し合い、試行錯誤の末に完成。春華堂創業130年となる2017年、先代の想いを繋ぐにふさわしいお菓子として、新しく生まれ変わった朝のお菓子「すっぽんパイ」が登場しました!>(公式HPより)
「うなぎパイ職人師範制度」。やはり57年もやっていると色々起こるようだ。
ちなみに、聞いた話だが、現在うなぎパイ職人は全員男性で、商品への異物混入を防ぐため、自主的に体毛を剃っている人もいるのだという。
半端ではない商品へのこだわりだ。もちろん、他社類似品も品質管理はちゃんとしているだろう。しかし「おっさんの体毛混入の可能性を1%でも減らしたい」という場合は、やはり春華堂のうなぎパイを買うべきなのである。
このように、生まれるまでのエピソードが特濃すぎるのだが、すっぽんパイは食欲のない朝でもサクッと食べられる「朝のお菓子」と銘打ってある通り、うなぎパイに比べるとあっさりした味わいだ。
パイというより、クラッカーに近い食感で、すっぽん他、桜えびや鰹節を使用しているからか、ほのかに魚介の風味がするが、クセはなく、確かに朝食べやすい。
それに朝というのは元気がないものだ。
少なくとも、一週間中五日は元気がない。会社を辞めれば七日全部元気になるが、そうもいかない。
よって、朝はウソでも良いから、会社に行く気力が出る物を摂取したいのだ。かと言って朝から、すっぽんの生き血をすするのは難しい。むしろすっぽんをさばいた時点でかなり消耗してしまっているだろう。
しかし、すっぽんエキスみたいなサプリを飲むだけでは味気ない。
その点、すっぽんパイはすっぽんエキス配合の上に、美味い。美味いので寝る前に一箱全部食ってしまった。おかげで元気に寝れたと思う。
私は売れたことがないのでわからないが、一発何かを当てたら「もうそれでいいや」となってしまう気がするし、その財産で食っていくというのも全然ありだ。
しかし、春華堂は半世紀たった今でも「越えるもの」を諦めていないのである。
そんな、老舗の根性と執念を一度食べてみてはどうだろうか。
<文・イラスト/カレー沢薫>
【カレー沢薫(かれーざわ・かおる)】
1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。主な漫画作品に、『ヤリへん』『やわらかい。課長 起田総司』『ねこもくわない』『ナゾ野菜』、コラム集に『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』『ブスの本懐』などがある
すっぽんパイは、どこが「朝のお菓子」なのか?
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