長崎「ちりんちりんあいす」バラの形に盛れってか<カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」>
【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」Vol.11 長崎「ちりんちりんあいす」】
今回のテーマ食材はとても暑い日に届いた。
毎回、食い物が送られてくるのは嬉しいが、何せ食ったら原稿を書かなければいけないので、数日寝かせることも、ままあった。
しかし今回は箱に「アイス」と書いてあるのを発見して、瞬時に包装を八つ裂きにし、箱を開け、中を確認し、蓋を閉め、冷凍庫にぶち込んだ。この間わずか3分である。
なぜ、食わずにしまったかというと、キンキンに冷えた牛頭が入っていたからではない、ちゃんとアイスが入っていた。しかし「すぐには食えないアイス」が入っていたのだ。
別に、鍋にうつしかえて火を通す必要があるアイスというわけではない。だが箱の中には、アイスが入っていると思われるケース、そしてコーン、ヘラが入っていたのだ。つまり自分でアイスをすくい、コーンに盛って食べる仕様なのだ。
つまり「そういうことをする元気がある時に食べよう」と判断し一旦保留したのである。
アイスをコーンに盛るだけで元気がいるって、どこの80歳児だと思ったかもしれないが、このアイスは、ただ昭和のデブキャラが食う飯の如くアイスをコーンに盛れば良いというわけではないのである。
送られてきたアイスの正式名称は長崎、前田冷菓の「ちりんちりんあいす」だ。
「ちりんちりん」はこのアイスを移動販売する際鳴らした鐘の音が由来で、最大の特徴は、注文すると販売員の人が、アイスをバラの形に盛ってくれるという点である。
アイスをバラ状にする、アイスの移動販売と言えば、秋田のババヘラも有名だ。
ババヘラとは、売る人が妙齢の女性が多かったため「ババアがヘラで盛るからババヘラ」というド直球すぎるネーミングをされたアイスのことである。今この名前をつけようと思ったら、各所から物言いがつきそうだし、最悪炎上するかもしれない。それに比べたら「ちりんちりん」の名前は非常に優しい。
つまりこのたび送られてきた「ちりんちりんあいす」は、自宅で、バラの形にアイスを盛って食べられる、という代物なのだ。
私が子どもだったらテンション爆上がりだったと思う。保留どころか、すぐさまトライしようとして「夕飯食べたあとにしなさい」とお母さんに怒られるやつである。どうやらうちに来るのが30年ほど遅かったようだ。
中年しかいない家に来てしまった不幸なちりんちりんあいすだが、逆に子どもよりは、上手くバラの花を作れるのではないだろうか。
というわけで「元気がある時」と言ったが、私には元気がない時と、調子が悪い時しかないので、普通に元気がない時に、ちりんちりんあいすにトライしてみることにした。
もんじゃ焼きを食べるような鉄製のヘラでアイスをすくい、コーンに盛っていくわけだが、これが凄く難しい。
私が、菓子のビニール包装すら上手く剥がせず、いまだに歯であける逸材だということもあるが、まず、アイスを花びら状に削り取るのが難しい。
「花びら」というより「花粉」になってしまう。しかしそれも無駄には出来ないので、とりあえずコーンに盛る。結果、花粉症なら即死するような、花粉オンリーのバラができた。
私が子どもだったらふて腐れて泣くし、私が母親で、子どもにこれを作ってあげたとしたら子どもは「コレジャナイ」と泣くやつである。嬉しいはずのアイスが涙しか呼び起こさないのは不幸である、うちに中年しかいなくて本当に良かったし、アイスで泣く中年もいなくて良かった。
アイスをバラの形に盛る「ちりんちりん」と「ババヘラ」
やってみたら花びらじゃなく花粉アイスになった
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