浜松「すっぽんパイ」、執念の再々チャレンジ【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」】
【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」Vol.10 浜松「すっぽんパイ」】
みなさん「すっぽんパイ」をご存知だろうか。
「うなぎパイ」の類似品のように聞こえるかもしれないが、発売したのは他でもない元祖うなぎパイの春華堂である。
「すっぽんパイ」は春華堂がこの春打ち出した新商品だ。
うなぎが当たったから次はすっぽん、という思いつきで作られたようにも見えるが、うなぎパイはすでに誕生から57年(初老だ)であり、思いついたにしては遅すぎる。
そう、「すっぽんパイ」は今思いついて出来たのではない、ずっと前から思いついていたのだ。
「次はすっぽんや」と思いついたのは二代目社長だ。そして1970年すっぽんのお菓子「かちもき焼」が誕生した。
みなさん「かちもき焼」を知っているか。おそらく知らないだろう。
消えているからだ。
なぜ消えたかというと、多くの消えた商品がそうであったように、売れなかったからだ。売れなかった、と言っても「うなぎパイほど売れなかった」という話だ。
どの業界でも一発ヒットを出したが、次が続かないというのは良くある。むしろ一発当ててしまったからこそ、次がそれと比べられてパッとしないということもある。
漫画界で言えば、高橋留美子御大のように、出すもの全て売れる天才もいるが、一方で……これは実例を出すと角が立つので控えるが、それでも一発当てただけでも大したものであり、私のように一発も当てず死ぬ奴の方が大多数なのだ。
よって春華堂も57年も続く銘菓うなぎパイを輩出した時点で、大金星なのだ。しかし春華堂は「二匹目」を諦めなかった。
1983年、すっぽん菓子第二弾「すっぽんの郷」がリリースされた。しかし、これもふるわなかったようで、今では単品販売はなく「お菓子のフルタイム」セットの中の一つとして残るのみだ。
結果として二回も成果が出せなかったのだ。
おそらく多くの人間がこう思うだろう「すっぽんはダメなのでは」と。
漫画だって野球漫画で二回コケれば、次はバブルサッカーとか方向転換をはかるだろう。しかし春華堂はすっぽんを諦めなかった。
ちなみに私は、猫の漫画をたくさん描いているのだが、どれも売れてない。だからと言って他の動物にしようとは思わないし、これからも猫を書くだろう。これは猫が好きというのもあるが「他に思いつかない」からだ。
よって春華堂も「すっぽん以外何も思いつかねえ……」という状態なのかもしれないが、2017年、二代目社長の御霊に報いるべく、すっぽん菓子第三弾「すっぽんパイ」が誕生した。
かちもき焼から47年、もはや執念である。しかもかけているのは年月だけではない。
消えた&ほぼ消えた“すっぽん菓子”の47年
まだやるか。第三弾「すっぽんパイ」が誕生
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