御鎌餅の箱を開けると「御鎌餅」と書かれた札状の紙が入っており、そこに赤字で「珍菓」と書かれていた。
この文言と御鎌餅がはちゃめちゃにミスマッチなのである。
現代で「珍菓」と言われてたら、ジンギスカンキャラメルのような、何かしら変わっている、インパクト重視のもの、もしくはド直球の下ネタ形状をしているものを想像してしまう。
しかし、この御鎌餅は、見た目はこれ以上なくシンプルだし、味も見た目どおりの手堅い美味さなのである。「珍」という文字はあまりにも似つかわしくない。
だが、何せ明治からある菓子である。明治の人間から見たらこの御鎌餅のビジュアルは「正気か?」というものだったのかもしれない。御鎌餅が正気じゃなかったら、大体の食い物は正気でなくなってしまうが、何かしら珍しいと思えるものだったのかもしれない。
もしくは、砂糖とか黒糖とか、当時何か「貴重なもの」が使われていたので「珍」という文字が使われているのかもしれない。
それで「珍菓」の由来を調べてみたのだが、どうも有益な情報が掴めない。そもそも、この御鎌餅自体、今では珍しいぐらい情報が少ないのだ。
まずこの大黒堂御鎌餅本舗は自社HPを持ってないようだ。老舗ともなるとHPを持ち、そこで通販をしていることが多く、現に今まで取り上げた食材ほぼHPがあったため、今回はかなりのレアケースである。
さらにネット依存症の貴重な情報源ウィキペディアにも項目がない。
よって、実際、大黒堂御鎌餅本舗で御鎌餅を食べた人のレポートなどを見るしかないのだが、そこに「珍菓」に関する情報はなかった。
これは現地に行き御鎌餅を買い、そのついでに店の人に「『珍菓』ってどういう意味ですか?」と聞くしかない。
わざわざ、京都くんだりまで、セクハラしに来た人のようになってしまっているが、電話とかでそれだけ聞いたら、いよいよソレなので、これが一番スムーズだ。
何でもネットで情報が得られる時代である。ネットで概要を見て満足してしまうこともしばしばだ。そんな中、現地で確かめないとわからない、というのはある種のロマンである。
たとえ「自分も知らないっす」「ノリで」等の返事が返って来たとしても。
<文・イラスト/カレー沢薫>
【カレー沢薫(かれーざわ・かおる)】
1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『
クレムリン』で漫画家デビュー。自身2作目となる『
アンモラル・カスタマイズZ』は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。主な漫画作品に、『
ヤリへん』『
やわらかい。課長 起田総司』『
ねこもくわない』『
ナゾ野菜』、コラム集に『
負ける技術』『
もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』『
ブスの本懐』などがある