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口コミで大ヒットの実話ラブコメ!中東系カレシとの恋のゆくえは?

 こんにちは、映画ライターの此花さくやです。  来る第90回アカデミー賞の脚本賞にノミネートされた『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』(2月23日公開)。パキスタン生まれのアメリカ人コメディアンで、米人気ドラマ『シリコンバレー』にも出演しているクメイル・ナンジアニと脚本家の妻で白人であるエミリー・V・ゴードンが、恋に落ちて結婚するまでの体験をユーモラスに描いた話題作です。
『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』より

『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』より

 パキスタンとアメリカの文化の違いを乗り越えていく2人の物語……という異文化カップルあるあるストーリーに加え、カップルを襲う悲劇(しかも実話!)と多様な移民社会を映し出す視点が興味深いんです。

移民にみるダイバーシティ

 政治や経済的な理由で本国から移住してきた外国人、というイメージのある移民。ところが、アメリカでは移民にも様々な層があります。とくに、高いスキルをもった外国人や、アメリカである一定額の投資ができるリッチな外国人には色々なビザが用意されており、彼らのなかにはアメリカの国籍やグリーンカードを取得する人も多いんです。  本作の主役であるクメイルはパキスタン生まれですが、移民1世の父親は裕福な医者。当然、2世であるクメイルは何不自由ない暮らしを送り、アメリカ社会に同化しています。経済的に豊かであっても、言葉や文化の違いに苦労した1世の親の姿を見て育った2世の子供たちは、親の期待にこたえて向上心が高く、高学歴で出世する人達が多い、というのが10年以上アメリカで暮らした筆者の印象。実際に、アイビーリーグなどの名門大学にはアジア系のアメリカ人生徒が大きな割合を占めていると言われています。
『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』より

『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』より

 作中、両親の「弁護士になってほしい」という希望に対し、クメイルは面と向かっては反抗しないのですが、コメディアンとして成功することを夢見ています。ジェネレーションによって社会に対する意識が異なるのは、どの民族でも同じ。だからこそ、アメリカで生まれていない人や外国人を“移民”というフィルターを通して見てはいけない――そんな想いが込められているのも本作の見所です。

911以後の移民の扱い

『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』より

『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』より

 911前後にちょうどニューヨークに住んでいた筆者ですが、911直後は中東系に見える人は苦労していました。例えば、インド系のアメリカ人の友人は生まれも育ちもアメリカ。エリートサラリーマンで高級スーツに身を包みながらも、911後の1年ほど、通勤のために乗る地下鉄の駅で毎朝警官に足を止められ、荷物をチェックされたとか。  本作では、クメイルがスタンダップコメディに立ったときに、白人男性から「ISIS」「テロリスト」と野次られてしまうシーンが。そんなクメイルを救おうと、恋人エミリー(ゾーイ・カザン)の両親が心無い白人男性に立ち向かうのですが、事態はさらにメチャクチャに……。この場面、涙が出るほどおかしいのですが、中東系に見える人たちがアメリカ社会で背負う差別を鋭く描写しています。
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「イスラム教徒=男尊女卑」ではない
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『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』は2月23日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国順次ロードショー 配給:ギャガ
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