斉藤:はい、痴漢は実際、真面目で勤勉な人が多いです。
手帳に痴漢の回数を正の字で記録している人もいるぐらいですから。
中村:勤勉すぎるわ(笑)。
斉藤:刑務所に行ってもみんな模範囚。痴漢する時も「今日は5人」とノルマを作ってスキルアップしていくわけです。彼らはその行為に人生を懸けています。見つかれば逮捕され、家族に知られ、仕事を解雇されるかもしれない。
そういうリスクがありながら繰り返すので、そこで脳に深く刻み込まれた条件反射の回路は、そうそう消えません。長くクリニックで治療している人には9年間プログラムに取り組んでる人もいますが、いまだに
「やっぱりやりたくなるときがある」と言っています。
中村:やりたいんだ。刻み込まれた学習行動はなかなか変えられないんですね。
斉藤:非常に難しいです。治療で学んだ対処行動などを使ってハイリスク状況を回避するんですが、対処行動は人によってさまざまです。ある患者にとっては、アイドルの追っかけでした。そのアイドルのTシャツやグッズを常に身に着けているから、捕まった時にアイドルたちに迷惑をかけてしまう、というのが彼にとってのストッパーでした。
不思議なのは、
アイドルたちに申し訳ないとは思っても、被害者には申し訳ないとは思わないんです。反復的な痴漢の学習行動によって思考回路に歪みが生じてしまっているんです。痴漢がなかなかやめられない要因のひとつでもあります。
※第2回に続く。
【斉藤章佳 プロフィール】
1979年生まれ。精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにて、アルコール依存症を中心に薬物・ギャンブル・性犯罪・クレプトマニアなどさまざまなアディクション問題に携わる。2016年から現職。専門は加害者臨床。著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)など。
【中村うさぎ プロフィール】
1958年福岡県生まれ。同志社大学文学部英文科卒。OL、コピーライターを経て、作家デビュー。その後、壮絶な買い物依存症の日々を赤裸々に描いた週刊誌の連載コラム「ショッピングの女王」が話題となり、『女という病』『私という病』などエッセイ、小説、ルポルタージュに著書多数。近著は『他者という病』(文庫版)、『エッチなお仕事なぜいけないの?』。
<TEXT/女子SPA!編集部>
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