そんなある日、恵子さんの元に1本の電話がかかってきました。
知らない番号なので出てみたら、なんとあの時の元彼だったのです。

「『
今、何してるの? 話があるからちょっと飲みに行かない?』と言うので、そういえば結婚したこと言ってなかったなと思い、『
私、結婚したんだよね』と言ったんです。彼は一瞬『
え!?』と驚いていましたが『
わかった、おめでとう』とだけ言って電話を切りました。
私は何となく『話がある』と言っていたのが気になって掛け直してみたんですが、彼が電話に出ることはありませんでした」
彼の真意を知ることになったのは、それから半年後のことでした。
「たまたま、彼が昔バイトしていた居酒屋の先輩と会ったんです。彼はその先輩と仲が良かったので、今、彼がどうしているのか聞いてみました。なんと彼、
おじい様の会社を継いで社長になったというんです。本当は彼のお兄ちゃんが継ぐ予定だったのですが辞退したため、彼が継ぐことになったのだとか。
あのバイトばかりしていた彼が今や年収1000万の社長に……。でも、私がショックを受けたのはそれだけではありません。先輩の口から出てきた言葉に、本当に驚きました。元彼が、『
自分がちゃんと生活していけるようになったら、恵子のことを迎えに行くんだ』と話していたと言うんです。
あの電話は、もしかしてそれを言うつもりだったのかと思うと……」
別れた元彼がまさかの大出世……! 自然消滅させずにとことん話し合っていタラ……彼に言葉で不安を伝えていレバ……。恵子さんの後悔は計り知れないものですが、見抜けなかった恵子さんにも原因はあると思います……。
彼も「あの時、いつか迎えに行くと伝えていレバ……」と後悔したかもしれません。だけど、時間は戻らないのです。
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結城の男女観察記――
<TEXT/結城>
結城
男女観察ライター。鋭い視点で世の男女を観察し、 夫婦問題からイタい火遊びまで、幅広いエピソードを華麗に紡いでいく。Twitter:
@yuki55writer