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年上男性を支配する女…歪んだ愛と美しいドレスに酔う『ファントム・スレッド』

 本年度アカデミー賞で6部門ノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞した話題作『ファントム・スレッド』が5月26日より公開されます。  監督は、『パンチドランク・ラブ』(2002年)、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)や『ザ・マスター』(2012年)でカンヌ、ベルリン、ヴェネツィア国際映画祭の世界三大映画祭を制覇したポール・トーマス・アンダーソン。
撮影現場のダニエル・デイ=ルイス(左)とポール・トーマス・アンダーソン監督

撮影現場のダニエル・デイ=ルイス(左)とポール・トーマス・アンダーソン監督

 本作に主演したダニエル・デイ=ルイスは、撮影後に抜け殻のようになり、俳優を引退すると表明しました。今回は、この話題作の見所を紹介したいと思います。

現代版シンデレラストーリーでは男女関係が逆転する!?

 1950年代のロンドン。イギリスのクチュリエ(高級仕立て服/オートクチュールのデザイナー)、レイノルズ・ウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)は、自身が経営するメゾンに住み、美しい服を作り上げることだけに全身全霊をかけていました。
『ファントム・スレッド』より

『ファントム・スレッド』より

 そんな彼をビジネスと私生活すべての面で支えるのは、姉のシリル(レスリー・マンヴィル)。ある日、カフェでウェイトレスをしている若い女性、アルマ(ヴィッキー・クリープス)に出会ったレイノルズは、彼女にインスパイアされてドレスを作り始めます。
『ファントム・スレッド』より

『ファントム・スレッド』より

 ほどなく、レイノルズのメゾンに移り住み、彼のミューズ兼恋人になるアルマ。東ヨーロッパからの移民である彼女はどんどん美しく洗練されていきます。しかし、次第にアルマに我慢ならなくなるレイノルズ。シリルにアルマとの別れをほのめかした矢先、アルマは“ある行動”を起こします……。
『ファントム・スレッド』より

『ファントム・スレッド』より

 若い女性が年上の男性に見初められて、美しく成長し、自我に目覚めていく物語は、オードリー・ヘプバーン主演の『マイ・フェア・レディ』(1964年)やジュリア・ロバーツ主演の『プリティ・ウーマン』(1990年)のよう。ハリウッドが長年描いてきたシンデレラストーリーは、男性が理想の女性を作り上げるという支配欲と、権力のある男性に依存する女性の体質を、恋愛物語でロマンチックにカモフラージュされたものです。
『ファントム・スレッド』より

『ファントム・スレッド』より

 ダニエル・デイ=ルイスの熱演のおかげで、レイノルズは、どこか憎めないチャーミングな男性として描かれていますが、アルマを美の完成品として人形扱いし、彼女の自我が目覚めた途端に関係を切ろうとする支配欲の塊。いまだに母の想い出に浸りながら、現実の面倒くさいことは全部姉に押し付けています。母を崇拝しながら女性を支配し、ある部分では依存する、大きな子供のよう。
『ファントム・スレッド』より

『ファントム・スレッド』より

 一方のアルマも、レイノルズに反抗しながらも別れようとはせず、彼に依存しています。男と女における支配と依存。普通のシンデレラストーリーなら、アルマがレイノルズの色に染まり、結婚しハッピーエンドで終わるところですが、本作は違います。アルマが“ある行動”をとることによって、二人の関係が逆転し、支配と依存が交錯した共依存の関係にいたるのです。
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クチュールからプレタポルテへ――ドレスで描かれる、時代の変化
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『ファントム・スレッド』は5/26(土)より、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA、新宿武蔵野館 ほか全国ロードショー。
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